研究課題/領域番号 |
24652056
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
対馬 美千子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (90312785)
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研究分担者 |
田尻 芳樹 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20251746)
堀 真理子 青山学院大学, 経済学部, 教授 (50190228)
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キーワード | トラウマ / サミュエル・ベケット |
研究概要 |
25年度はセクションごとにトラウマ表象の問題についてベケットを軸に研究を行い定期的に会合を開き意見交換を行った。9月にはロバート・イーグルストーン氏(ロンドン大学)を招聘し、東京大学で開催された研究会において、トラウマに関する話をしていただいた。また彼から専門的知識の提供を受けた。以下、セクションごとにみていく。田尻:学部の授業でカルース、フェルマン、ラカプラなどのトラウマ理論の展開を概観し、これらの理論がホロコーストを霊感源とし、また同時に脱構築批評などのポスト構造主義の理論から派生してきている有様を明確に把握することができた。そのような理論的背景の理解はベケットのテクストとトラウマの関係を考察する上での基礎作業として有益であった。また敗戦というトラウマが戦後の日本の文化表象に与えた影響を考察し、日本におけるトラウマ理論の可能性について西洋との比較において検討する必要性を認識した。堀:ベケットの作品に書かれている自伝的なトラウマの記述のうち、海に向って落ちる恐怖、結核で亡くなった恋人ペギー・シンクレアの死にまつわるトラウマが、第二次大戦中にベケット自身が味わったトラウマ経験とリンクしていることを、これまでのトラウマ理論研究に照らして分析・考察した。これにより、個人的なトラウマ経験が社会的・政治的・文化的トラウマ経験と密接に関連することをベケットはみごとに描いているということが明らかになった。対馬:学部、大学院の授業において、主要なトラウマ理論を講読し、現代文化におけるトラウマの問題について社会学、哲学、精神医学、歴史学、文学などの多様な視点から考察した。とくに、トラウマと証言、フェミニズム、記憶、共同体、文学の問題との関係について検討した。また昨年に引き続きベケット作品との関連においてトラウマ体験と皮膚の問題について考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)前回の挑戦的萌芽研究(H21-23年度)の延長線上で、世界的ネットワークを継続し、発展させることについては、イーグルストーン氏の招聘などを通して進展している。 2)ベケットの関連において、小説、演劇、思想のセクションごとにトラウマ表象について考察し、各セクションにおいて研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究活動を通して得られた成果を全体としてまとめあげる。年度当初に全体会を開き、前年度の成果を踏まえたうえで、本研究が現代社会に対して提示できるトラウマ表象としての文学の問題についての考察をまとめていく。その延長線上で以下の作業を進める。 (1)前年度に引き続き、セクションごとに20世紀ヨーロッパ文学におけるトラウマ表象の問題について、ベケット作品を軸に様々な角度から分析を行い、考察を深める。 (2)論文集出版のための作業を進める。 3年間の研究の成果を論文集の形でまとめ、研究叢書(執筆言語は英語)として英語圏の出版社から出版するための作業を行う。これには執筆者との意見交換、出版社との交渉、編集作業等が含まれる。
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次年度の研究費の使用計画 |
トラウマ理論関連の研究資料を購入したが、想定より安価で購入できたため、次年度使用額が生じた。 平成26年度は、サミュエル・ベケット作品に関わる資料を購入する予定であるので、そのためにこの残額を使用する予定である。
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