研究課題/領域番号 |
24652059
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
竹内 勝徳 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (40253918)
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キーワード | 口述文化 / メルヴィル / ホーソーン / アメリカン・ルネサンス / 言語理論 |
研究概要 |
19世紀アメリカの口述文化とその影響力をアメリカン・ルネッサンス作家のテクストと照らし合わせ、その言語的特質を明確化した。特に注目したのは、ホーソーンやメルヴィルにおける音声と言語的意味の関係性である。トールテールなどの口述文化がメルヴィルやホーソーン、ポーなどのアメリカン・ルネッサンス作家に影響を与えた点については議論の余地はないが、そのトールテール的な口述性が一定の影響力をもって彼らの文学テクストを発展させた事実の背後には、超絶主義的な言語理論に加え、より言語学的な知見に裏付けられた議論があったことは知られていない。本研究ではそれを集約する具体的な出来事として、ハンガリー出身の言語学者チャールズ・クライツァーと超絶主義者たちの接触に注目した。クライツァーの言う「自然言語」から派生した音声そのものに内在する調和と、それに対する否定的な考え方がホーソーンやメルヴィルの言語観に影響を与え、彼らのストーリーやテクストの性質を決定していった面がある。John Bryant等の編集によるFacing Melville, Facing Italyに掲載される拙論 "Vocal Sounds and Linguistic Signification in Herman Melville’s Novels" は本研究によって得られた知見を基に、メルヴィルとホーソーンの言語理論における類似点や相違点、そして、それに絡めてメルヴィルの小説を初期の『タイピー』から死後出版の「ビリー・バッド」までを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
拙論 "Vocal Sounds and Linguistic Signification in Herman Melville’s Novels" はFacing Melville, Facing Italyの編者John BryantやGiorgio Marianiから高く評価された。また、アメリカン・ルネサンス研究の大御所デイヴィッド・レノルズは本論を読んで、そのposthumanな分析に大いに興味を持ってくれた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得た調査結果を基に、アメリカン・ルネッサンス作家の口述文化的なテクストが、同時代の「例外状態」―先住民との抗争、食人種との出会い、熊狩り、自然の脅威―に対して、主流文化への包含行為をどれほど行使し、どれほどその権力構造に自覚的であったかについて考える。さらには、トゥエインやヘミングウェイを研究対象に加えることで、その「例外状態」と主流文化の対立構造やそれに対する作家の立ち位置が19世紀、20 世紀を通してどう変わってきたのかを俯瞰していく。この際、特に重要な点は、18世紀から19世紀にかけて隆盛を極めたトラベル・ライティング(南洋の航海記や先住民の調査記録を含む)は、Mary Prattによれば書き言葉によって達成されたマスター・ナラティブであったが、この間アメリカの土着文化にみられるトールテール的な口述性が様々な大衆文化に浸透することで逆説的に視覚性を帯び(バーナムの見せ物やミンストレル・ショー) 、結果としてマスター・ナラティブを浸食した結果、メルヴィルからトゥエインによって継承される中でトラベル・ライティングは大きく歪み、変容したという事実である。これによって、メルヴィルとトゥエインは、アメリカン・ルネッサンスというカテゴリーを超える結びつきを示すことになる。本研究は両作家の文学史における位置づけを大きく書き換えることになるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
レビューを受ける北米の研究者とのアポイントメントが次年度にずれたので、旅費相当分を次年度に繰り越した。 北米を中心に実地調査やレビューを実施する。
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