研究は、トールテールに代表されるアメリカの口述文化が内包するメッセージ伝達構造を、最新の科学的知見によって検証すると共に、それがアメリカン・ルネッサンス作家の作品にどのような形で反映し、テクスト構造にどのような変化を与えたのかを明らかにするものである。アメリカン・ルネッサンスの作家は、トールテールや説教、演説など同時代に流行したオーラル・メッセージングに強い影響を受けている。本研究は、そうした声の文化にみられる言語的特質を分析し、それをアメリカン・ルネッサンス作家のテクストに読み取り、それが作家の想像力によってどう用いられ、どのように変化したかを調査するものである。 平成26年度はナサニエル・ホーソーンの『ファンショー』をポストモダン思想から捉え直し、鏡像的分身に同一化しようとする登場人物が、実は音声と意味の恣意的な結びつきを拒む想像界的状況に停滞しているということを明らかにした。ナサニエル・ホーソーンはこうしたテキストと声のポストモダン性を意図的に追及したわけではないが、声の文化に対して一定の距離を置き、こうしたポストモダン的状況を直観的に把握していたことが分かった。それは『ファンショー』の中で、ヒュー・クロンビーが若者たちとバラッドを歌い、酒を飲み、大騒ぎをしてトラブルを引き起こす点からも裏付けられるだろう。
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