研究課題/領域番号 |
24652061
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
石倉 和佳 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10290644)
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キーワード | 英文学 / 英文学研究 / 科学史 / 批評理論 |
研究概要 |
平成25年度の研究実績はおもに次の三点である。まず、1)M. H. AbramsのThe Mirror and the Lampで展開されたコールリッジの想像力に関する批評を手掛かりとして、20世紀の文学研究パラダイムの形成をNew Criticism のロマン主義文学の解釈にさかのぼり批判的に検討した。当時の科学研究の影響を強く受けていたコールリッジの思考を、ロマン主義研究は科学的歴史性に基づいてすくい上げるに至っていないことを指摘した。(「コールリッジは「科学」したのか?―The Mirror and the Lampと文学研究パラダイム」イギリスロマン派学会全国大会口頭発表)。続いて、2)ロマン主義期に展開した科学研究の中で科学史上重要だと考えられる熱学に関する科学的興味が、ロマン主義文学研究で如何にとらえられているかを検証した。H. デイビー、ラムフォード卿、ジョン・ドルトンの三人を取り上げ、各人の熱学の発展への貢献を時代背景から考察し、それらがロマン主義文学研究では科学史上の視点から十分検討されていないことを考察した。(「19世紀初頭の熱学からみる現代イギリス・ロマン主義文学研究―史的方法論に向けて」連携研究者中根美千代との共著)。3)植物学および園芸の発展との関連で、キーツのIsabellaにおける植物のイメージを考察し、この考察を国際学会での発表に取り入れた("The Desire for Romantic Flowers: The Consumption of Oriental Flower-Images in Domestic Discourse" BARS International Conference, Romantic Import and Export)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、20世紀に確立した制度としての英文学研究の枠組みにおいて、学際的な研究方法の開拓が十分に行われていないこと、科学的知識の取り込みが断片的であることを明らかにし、英文学研究のパラダイムに潜在する非歴史性を明らかにすることである。平成25年度においては、コールリッジの想像力論や、キーツ作品の分析を通して、文学に現れた科学的知識が史的な認識においてとらえられていない傾向を明らかにした。またこれととともに、科学史的知見からロマン主義期の熱学についても考察を加えた。科学史上重要な科学的進展であるととらえられる事象が、必ずしも文学研究では重要視されず、文学者が理解した範囲での、同時代的反応に基づいてなされる傾向があることを明らかにした。英文学研究が科学知にいかにアプローチしているかという研究手法への批判的検討のみならず、科学史的視点との比較を行うことができたことは、特に今年度の成果であったと考える。 これらに加えて、「学際研究の実際と課題」として、英文学や建築史・意匠などの研究分野において他分野の知見をどのように消化し生かしているかについて、発表を交えてディスカッションを行った。今年度までの段階では、科学史に関係する分野の議論が十分深まったとはいえないが、今後学際研究の在り方を考えるためには有意義な試みであった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、昨年度に研究発表した内容を発展させ、コールリッジの『文学的自叙伝』をコールリッジの科学的思考から読み解き、その受容史をたどることで、この著作を英文学理論の重要な著作としてきた英文学パラダイムによるコールリッジ理解には限界があることを明らかにしていきたい。また、これまでほとんど考察されてこなかった、コールリッジとジョン・ドルトンについて、原子をめぐる思想上の関係性を歴史的背景とともに考察したい。これらの点については、しかるべき学会で発表するとともに、論文としてまとめる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に予定していた海外調査を翌年に延長したが、H25年度の国際学会発表の際にイギリスでの調査をある程度進めることができたため、一回分の調査用旅費分が繰り越されている。 繰り越し分を含む今年度予算は、国際学会発表および海外調査のため旅費として使用するほか、研究図書購入やパソコン等研究環境整備のために使用する。
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