研究課題/領域番号 |
24652062
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
水之江 郁子 共立女子大学, 国際学部, 教授 (40229711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流イギリス / 国際情報交流アイルランド |
研究概要 |
常に世界の状況を見渡し、公平さを重んじて積極的に社会活動を支持する姿勢を保ち続けた聖心会シスター、ルース・シーヒーは、来日前の履歴にも生き方の萌芽を見出せるが、まだ海外渡航が一般的ではなかった時代に、ほとんど情報のない日本という遠い国に遣わされたことが、大きな転換点・新たな出発点となったに違いないと元同僚たちや親族の話からも推察できた。アイルランドは、伝統的にアフリカや南米などへ多くの宣教師を送り出し、そのような登場人物を含む文学作品も少なくない。しかし、当時アジアは遠く、想像力の領域にも余り扱われない世界であった。その未知の世界に降り立ったときから、ルース・シーヒーは言語も文化も異なる社会で、使命としての教育を通して、闊達に「公平さ」を追求する姿勢を強めていった。 フランス革命直後の混乱を極めた社会に芽生えた女性修道会の一つ、聖心会は、設立当初から教育に力を入れ、行動を重視する組織であったと文献は伝えるが、改めて、シーヒー姉について①聖心会②一女性としての生き方③女子教育観④背景の社会等を相互に関連させつつ、調査を進めた。聖心会の新庄三重子氏(2013年度より日本管区責任者)のご配慮で、親交のあったグウェン・ホッフェル姉、また元同僚・部下などに面会して、その生き方や考え方に触れ得たと思う。 夏の出張では、バーミンガム在住のエリー・トービン氏(元同僚)に面会、アイルランドでは、近年活発な展開をみせる女性学・女性史の権威で大きな牽引力であるドミニコ会シスター、マーガレット・マックカーテンの指導を受け、甥の司祭リチャードや姪のTCD職員ルースに会って、家族の逸話等数々の情報を得た。在米の甥デイヴィッドからも、叔母を語るEメールを入手した。 シーヒー姉は、20世紀前半の著名な活動家ハナ・シーヒー・スケフィントン及び現在も各界で活躍する一族に属し、その観点からも考察中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は予定通りの文献調査やインタヴューを実行できて、順調であった。出張時も、時間的にぎりぎりまで予定を入れて、インタヴューにあたり、多くの情報を得た。 特に、アイルランドでは女性学、女性史の研究で第一人者であり、かつ多くの人々の尊敬と信頼を得ているカトリック修道会のシスター、マーガレット・マックカーテンに親しく指導を受けることができたのは、さまざまな観点から―学問的にも人間的にも収穫であった。もっと長期に滞在できれば、さらに数名のインタヴューも可能であったが、本務との関係上、それは難しかった。特に、聖心会の本部が置かれた学校へ案内されたものの、夏季休暇中の職員は事情に詳しくなく、概略しか掴めなかったことは残念であった。(しかし、他の時期に訪問することも、本務の現状から考えにくく、何らかの手段を考えたい。) 11月以降、本務の忙しさと体調不良とが重なり、秋までの成果を十分に整理しきれなかったことが悔やまれるが、何とか目標とした成果にまとめていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最初の研究計画に書き込んだように、アイルランド研究の第一人者であるモーリーン・マーフィー・ホフストラ大学(NY)教授を招聘し、昨年の収穫に基づき、報告を聞いてもらう。現在の研究テーマに絞られたのも、マーフィー教授とのディスカッションを通してであり、平成25年度内に研究を纏めるに当たって、必ず数多くの示唆を得られることと思う。時間的に都合がつけば、もう一度アイルランドを訪問し、シスター・マーガレット・マックカーテンにも会いたい。多少の研究を経て、以前はできなかった質問がいくつも思い浮かぶ。 20世紀への転換期、特にまもなく100周年を迎えようとするイースター蜂起の時代のアイルランドから、保守化するカトリック国アイルランドを背景に、国の独立と自由、女性の権利、社会正義を求めて戦い抜いた祖先であるハナ・シーヒー・スケフィントンの精神を受け継ぎ、閉鎖性を強めていた教会及び修道会に属しつつも、のびやかな心と態度で、若い女性たちの教育にその生涯をかけたシスターとしてのルース・シーヒーについて、文章化していきたい。文章に表現することは、その過程で、必ず再調査や再確認を要する疑問が生じるとも思われるので、この1年は決して長くない。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように、ニューヨークからモーリーン・マーフィー教授を招聘することが、当初からの計画である。5月22日から29日を予定している。その際の航空運賃と宿泊代を負担したい。 さらに筆者が海外へ出られるのは夏季に限られるため旅費は高騰し、かつ円安の傾向にあるので、アイルランド出張を計画すると、残額をほとんど使用することになると思う。 幸い必要文献は相当数を既に揃えることができたので、あとはひたすら読むこと、書くことに徹したい。
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