研究課題/領域番号 |
24652066
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
越野 剛 北海道大学, スラブ研究センター, 助教 (90513242)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ロシア / ベラルーシ / 戦争 / 記憶 / ナポレオン / 地域間比較 |
研究概要 |
●7月15‐16日に北海道大学で研究会「近現代戦の表象比較研究:戦争のメモリー・スケープ」を開催した。ロシア、中国、ベトナム、日本における戦争表象を扱う8本の報告が行われ、4名のコメンテーターが討論を行った。この研究会は、戦争の記憶と表象に関する比較共同研究を組織するための準備作業として位置づけられる。 ●8月25日から9月1日まで、ポーランドのクラクフ国際文化センターよって組織されたベラルーシ現地調査セミナーに参加し、ロシア語文化圏の西端にあたるベラルーシ西部の小都市を調査した。東のギリシア正教と西のカトリックの文化が混在し、戦争のたびに国境線が引き直されてきた境界地域の特徴を知ることができた。現地のポーランド系ベラルーシ知識人にインタビューして、境界地域に住む人々の空間認識やアイデンティティを調査した。 ●10月6日に同志社大学で開催された日本ロシア文学会で、1812年のナポレオンのロシア遠征(祖国戦争)の文化的記憶を、文学・絵画・音楽・映画・旅行記などを題材にして、5人の研究者によるワークショップを組織・開催した。その実績をふまえて、1月27日は東洋文庫ミュージアムの公開講座で戦争を契機としたロシア・イメージの変容について講演を行った。 ●2月5‐7日に北海道大学大学院共通授業科目の集中講義として「ユーラシアにおける戦争の記憶と表象」を組織した。大学内外の研究者6名によるリレー講義で、ロシア、日本、中国、ベトナムにおける戦争の記憶、ジェンダー、視覚表象などについて、学生と研究者をまじえて討論を行った。 ●2011年8月に北京で開催されたスラブ・ユーラシア研究東アジア学会で組織したワークショップ「ナポレオンとロシア文学」の成果が、中国のロシア文学会の雑誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
●他の研究会や調査旅行との日程調整がうまくいかず、本年度の実施計画に含まれていた東部境界地域(サハリン・極東)での現地調査を行うことができなかった。ポーランドのクラクフ国際文化センターの企画に合わせる必要が生じたため、次年度に予定していた西部境界地域(ベラルーシ)を前倒しで実施する結果となってしまった。 ●本研究代表者は、新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」の事務局をつとめているが、本年度は5年間の新学術領域研究の最終年度にあたり、総括シンポジウムや最終成果刊行の準備作業に割かれ、十分な研究時間を確保することができなかった。ただし本年度で事務局任務から解放されたことにより、次年度以降はより多くの時間を本研究に割くことができる。 ●7月の北海道大学での研究会、10月のロシア文学会ワークショップ、2月のリレー集中講義を企画・組織し、その過程でテーマに関わる研究者のネットワークを構築することができた。今年度の実施計画に従い、他の地域の研究者との戦争の記憶に関する幅広い比較研究を行うため、基盤研究B「社会主義文化における戦争のメモリースケープ:旧ソ連、中国、ベトナム」を研究代表者として申請・採択された。
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今後の研究の推進方策 |
●次年度から研究代表者として採択された基盤研究「社会主義文化における戦争のメモリースケープ」と連携して研究を進める。ロシア語文化圏の東部および西部の境界地域それぞれにおいて、隣接する他地域の研究者との共同研究を有効に活用することができる。また本研究の研究成果を、論文集などの他地域の研究者との共同研究成果の一部として、地域間の比較が可能な形で発表するよう努める。 ●東部境界地域と西部境界地域をばらばらに調査・研究するのではなく、比較可能な共通の枠組を設定して、両地域の共通点と差異を明らかにする。例えば西部地域のユダヤ系作家と東部地域の朝鮮系作家は、ディアスポラという観点から比較が可能である。戦争をテーマにした地方文学のテキストを比較することにより、中央のオフィシャルな戦争の記憶とは異なるローカルな記憶の特徴を明らかにすることもできる。
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次年度の研究費の使用計画 |
●本年度に予定していた現地調査が変更になったため若干の繰越金が生じた。次年度には繰越金を加えた研究費で、東部境界地域(極東・サハリン)の現地調査を行い、作家や知識人のインタビューを行う。また極東地域の朝鮮系作家に関する資料収集を行う。 ●8月9-10日に大阪経済法科大学で開催予定のスラブ・ユーラシア研究東アジア学会で、イギリスのロシア史研究者、日本の美術史研究者と共に戦争犠牲者の表象に関するパネルを組織する。 ●9月にモスクワで研究会を開催し、日本とロシアの研究者のネットワーク作りを行う。ロシア国内の戦争の記憶に関連する施設の調査や作家・研究者などのインタビューを行う。その際には地域間の比較を行うため、中国・ベトナムなどの他の地域の専門家複数に同行してもらう。 ●12月に北海道大学スラブ研究センターで行われる国際シンポジウムで、国外の専門家1名を招いて、ロシアをふくむユーラシア地域の戦争の記憶に関するセッションを組織する。 ●二冊の論文集の刊行を行う。(1)今年度10月のロシア文学会ワークショップで組織したグループを中心にして、ナポレオン戦争の文化的記憶に関する論文集をまとめる。(2)今年度7月の研究会、および基盤研究Bで組織した研究者により、旧ソ連・中国・ベトナムの戦争の記憶の比較研究を論文集として刊行する。
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