研究課題/領域番号 |
24652067
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
竹内 修一 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (40345244)
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キーワード | マルロー / コメモラシオン / 記念 |
研究概要 |
アンドレ・マルローの『弔辞集』には、この作家がフランス第五共和国初代の文化担当大臣であった時代に行った追悼演説が収録されている。それらの演説で彼は、その場にいる聴衆とともに、あるいはテレビやラジオで彼の声を聞くフランスの国民とともに、自分が行うのは死者のコメモラシオン(記憶の共有)であることを強調している。本研究は公共の場で行われる追悼演説が、死者をどのように表象・再現し、それをどのような物語(歴史)に組み込み、そうすることで、その物語を共有する共同体の統一を達成しようとするのかを、この『弔辞集』を通して考察しようとするのものである。 平成25年度は、前年に引き続いて関連する資料の収集に努めたうえで、「ジャンヌ・ダルクの死のコメモラシオン」および「ジャン・ムーランの遺灰のパンテオン葬」という二つの演説を分析対象にとりあげた。前者に関しては、フランスに於けるジャンヌ・ダルク像の変遷のなかで、この演説をどのように位置付けるべきであるかを考察した。王の戴冠と王国の防衛のために戦った「キリスト教の聖女」を、政教分離を掲げる「世俗の共和国の英雄」に仕立て上げるマルローの技術が明らかになった。今日のジャン・ムーランの名声の確立に多大な寄与をした後者に関しては、研究成果をお茶の水女子大学で開催される仏文学会春季大会で発表予定である。 なお、2013年5月にには雑誌『カミュ研究』(青山社)第11号に「正義と殺人」と題したフランス語論文を発表したが、これはドイツ人に殺されたフランス人同胞たちの「記憶」を保持して、対独協力者を処罰せねばならぬと主張したカミュと、国民的和解のために寛大な措置を求めたモーリヤックとの論争をとりあげたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本フランス語フランス文学会2014年度春季大会に於いて「死者の記憶と共同体」と題するワークショップを開催し、アンドレ・マルローの『弔辞集』のなかでも最も有名な演説「ジャン・ムーランの遺灰のパンテオン葬」に関して研究発表を行う目途がついたため。ジャン・ムーランを「三人称の死者」を「二人称の死者」に転化するマルローの演説の技術を、演説のテクストおよび残された当日のセレモニーの映像から明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年に引き続いて、個別の演説に関する分析を行うと同時に、『弔辞集』に収められたすべての演説を貫く「コメモラシオン」のモチーフに関して、歴史的状況を視野に入れながら考察を行いたい。なお日本フランス語フランス文学会春季大会(2014年5月25日)に於いて、「死者の記憶と共同体」と題するワークショップを開催し、研究代表者はマルローの「ジャン・ムーランの遺灰のパンテオン葬」をめぐる発表を行う予定である。また7月には北海道大学大学院文学研究科に研究者を招いて、「死者人称論」に関する講演会を開催する予定である。
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