研究課題/領域番号 |
24652069
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
明星 聖子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (90312909)
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キーワード | ドイツ文学 / カフカ / 文献学 / アーカイブ / 資料 |
研究概要 |
本プロジェクトは、カフカの手書き原稿の物理的な保管状況を調査し、歴代の編集者たちのアーカイビングおよび編集過程を分析することで、カフカの手元での<オリジナル>の管理構造を復元し、カフカ理解の新たな道を探るものである。2年目にあたる本年度は、まずは昨年オックスフォード大学で収集した資料を、再度詳しく分析することから始めた。その結果、すでに昨年の段階で発見されていたアーカイビング記録の欠落部分が、やはり手稿の構造理解に大きく関わる部分であることが確認された。(したがって、当初予定していたMS.Kafka 34および35に特化した解明は、非常に困難であることも判明した。)この認識は、一面では今回の計画の<挫折>を示唆するものであるものの、しかし、別の面でいえば、今回の課題である手稿資料の管理構造の問題が、じつは文学研究においてはまだ未開拓の領域である可能性を浮かび上がらせるものだともいえるだろう(少なくとも、カフカの手稿資料のアーカイビング段階では、アーカイビングに関わる記録の重要性についてはまったく認識されていなかったと見受けられる)。とすれば、次に取り組むべきは、むしろ(本来目論んでいた順序とは逆になるが)、文学テクストの理解において、その種の資料構造を歴史的に正確に把握することがいかに有効かを<解釈>として説得的に語ること、そしてそれを通じて、人々にその問題への関心を喚起していくことになるだろう。こうした考察を経て、今年度の後半は、その第一段階の試みとして、カフカの生前に刊行された作品を、彼の手紙や日記といった私的な資料と深く関連づけて読み解くことに取り組んだ。その準備的探究は予想以上に大きなスピンオフとしての成果につながりつつあり、来年度中には書籍化することも考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オックスフォード大学で収集した資料の分析も順調に進み、その結果、当初の計画は若干ずれることになったが、しかし、カフカ理解におけるこれまでほとんど認識されてこなかった問題点を明確にすることができた。その点を広く社会に問題提起するための書籍の執筆にも取りかかっており、全体としてカフカ・テクストをめぐる探究自体は、順調に進んでいると見なすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度から執筆を開始した書籍を完成させることを第一の目的とする。その過程で、本プロジェクトが目的とした資料構造の理解から資料のオリジナル状態の<復元>への道筋について、もう一度その<方法>を検討する。また、その検討の結果をもって、再度、オックスフォード大学やドイツの文学資料館を訪れ、資料収集にあたるとともに、研究者たちとの意見交換もおこなう。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度のオックスフォード大学での資料調査において、当初の予定以上の成果をおさめることができたため、今年度はその際に収集した資料の分析に集中した。また、書籍の執筆も開始したため、海外出張および新たな資料の購入等は実施しない結果となった。 今年度は、昨年度からおこなって収集資料の分析および書籍の執筆を通じての理解の成果をもとに、再度オックスフォード大学ほかの関係機関を訪れ、資料調査および研究者たちとの意見交換を重ねる予定である。
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