研究課題/領域番号 |
24652075
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
木原 誠 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (00295031)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | アジール / 修道院都市 / オクシデント / 供義 / 煉獄 |
研究概要 |
本研究の目的は、医学・精神病理学の三つの概念、免疫・タブー・徴候に共通する現象、境界/周縁で起るマー キング作用に着目し、これを地霊に宿る文化の深層記憶(自己と非自己を識別する文化免疫作用)による主体的 印づけ=各文化を区分する「タブー(原義:印づけ)」の痕跡と同時に徴候(「歴史の予兆としての死の記憶」 )と措定した上で、そのメカニズムを解明することにより、死(者)の詩学の視座から政治・社会学に偏重される今日の文化学を逆説・異化する新しい学の一モデルを示すことにある。対象地域は周縁のしるしづけ作用が今も活発に働き、比較精神史上重要な東西二地域―1 極西アイルランドの国土を二分するドニゴール/ロンドンデ リー州の国境地帯(煉獄巡礼地帯)、2 極東・東国の境界・鎌倉七口切通し一帯(「地獄巡礼地帯」)である。本年度は、ドニゴール・ダーグ湖の煉獄巡礼を巡礼参加により、調査を行った。特殊な煉獄巡礼の様式を調査することにより、それがキリスト教(カトリック)以前の異界下りの古代儀式(供儀)の様式を反映しており、その儀式を通じて修道院がアイルランド型都市形態であることの手がかりを掴めたことが最大の成果である。すなわち、通常、都市は交通の要所であることが前提となると考えられているが、僻地の湖に煉獄巡礼のステーションを置き、そこを異界へ通じる入り口(しるし)とすることで、独特の修道都市を築いていってと想定される。その背景には、ヴァイキングから都市を保護する要塞としての機能があったことも理解される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定では、主にアイルランドと北アイルランドの国境地帯、ドニゴール/ロンドンデリーを現地調査し、資 料を行った。調査の中心に据えていたのは、ドニゴール・ダーグ湖周辺であった。ダーグ湖は、南北の境界線上に一するが、歴史的にもその所有を巡り、政治的・軍事的激しい攻防があった。調査は、その攻防の痕跡を辿ることがある程度できたと考える。調査は一ヶ月程度の日数を目処に行なった。さらに国境は南北に延びティロン州にまで及ぶため、この地域の調査も併せて行なった。以上の点を考慮し、現地調査に関しては、計画通り、順調に親展していると考えている。ただし、調査で得られた資料の分析に関しては、次年度の課題となっている点も付記しておく。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に作成した基礎理論の見取り図を吟味し、それを具体的に文書化し、問題点を検討することが最大の課題である。併せて24年度の実地調査で得られた資料を分析していく作業を行なうが、鎌倉に関する資料収集のための実地調査は次年度以降に続き行なう予定である。ただし平成25年度の調査は文学の立場から、能の演目:『景清』中にみえる景清の娘人丸が預けられた場所、亀ケ谷付近を中心に調査するつもりである。この付近は伝承では源頼朝の暗殺を企てた景清が処刑された場所であり、琵琶法師となって「日向(すなわちオリエント)」( 宮崎県)に落ち延びた『景清』の記述とは明らかに矛盾している。だがむしろこの矛盾のなかに地霊の記憶を声 にする琵琶法師の軌跡を解く重要な鍵が潜むと考えており、このことを神奈川県、鎌倉市等の郷土資料館での資料収集も含めて解明を進めていきたい。併せて、鎌倉一体を「もうひとつの鎌倉」=異界の入り口と想定しつつ、伝承ゆかりの地を調査していく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、残高が6万円程度あった。その理由は、アイルランドでの現地調査が円高のため、当初予定していた費用より小額になったためである。次年度は、この残高を併せて、鎌倉の現地調査費用にあて、調査の充実を図りたい。
|