研究課題/領域番号 |
24652085
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
吐師 道子 県立広島大学, 保健福祉学部, 教授 (40347779)
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キーワード | 姿勢と発話 / フォルマント / NDI WAVE / 母音調音 |
研究概要 |
2012年度には、「良い姿勢」(以下中間位)と「背を丸め頭を突き出した悪い姿勢」(以下円背)の間で単独発話された母音のフォルマント周波数に差が認められるという研究結果が得られたが、この際用いられたデータは全て円背条件が3姿勢条件中最後に実施されており、順序効果が疑われた。2013年度は円背条件を最初に実施して新たに13名分のデータ収集を行い2012年度分15名のデータと合わせて分析を開始した。 2013年度には姿勢変化に伴う母音調音の変化の検討のため、WAVE speech research systemを用いての音響データと同期した調音データの収集が計画されていた。しかしWAVE speech research systemについては、センサのワイヤが太すぎるため自然な調音が妨げられるという問題が2012年度より指摘されており、妥当性を有するデータを収集するためにはワイヤの改良が必須であった。そこでこれらのワイヤを細く柔軟性のあるものに変更した改良型ワイヤを開発した。改良型ワイヤとオリジナルセンサとの比較により、改良による測定精度への影響はないことが確認され.又この改良によって被験者が感じる違和感や自然な調音の阻害も減少した。 上記改良型センサを用いて収集した調音データを用いて、姿勢変化に伴う母音のフォルマント周波数変化及び母音調音、特に前舌部の運動範囲の変化を検討した。その結果、1)中間位と比較して円背で前舌部の運動範囲が特に上下方向で縮小し,F1の低下が見られる発話者,2)中間位と比較して円背で前舌部の運動範囲が拡大し/a/においてF1が上昇した発話者,3)姿勢間でフォルマント周波数及び舌位置が変化しない発話者が認められ、姿勢変化によりフォルマント周波数が変化する発話者、フォルマント周波数の変化は限局されているが前舌部の運動範囲が変化する発話者の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2012年度末に設定したゴール1)発話姿勢聞き分けの音響的手掛かりの解明2)姿勢間での母音フォルマント差の再検討3)姿勢変化の調音運動への影響解明、のうち1)については聴取実験に使用した3文続きの発話について母音のフォルマント周波数及びアクセント核での基本周波数の比較を試みたが、姿勢間での一貫した差は得られなかった。原因としてはa)姿勢間の差は発話全体に一貫して現れるのではなく発話の一部に現れ、聞き手はこれを知覚して姿勢を聞き分けている可能性、b)本実験で被験者間にばらつきが見られる頸部と頭部の角度が発話の音響特徴、特に基本周波数に影響を及ぼしている可能性が挙げられる。 2)については研究実績の概要の通り、データ収集は終了したが分析は現在進行中である。 3)についてはセンサの改良が必要であったため、2013年度の前半をこれにあて後半に2度の実験を行った。第1回目の実験で収集されたデータについては学会発表がなされているが、2回目実験は3月後半に行わざるを得なかったためその処理及び分析は2014年度に持ち越されている。
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今後の研究の推進方策 |
優先順位は1)姿勢変化に伴う母音フォルマント周波数変化及び姿勢変化の母音調音への影響を解明する、2)「発話姿勢は聞き分け可能か」を発話者数を増やして再検討し、聞き分けが可能であった発話に関してはさらに文ごとに聴取実験を行い、姿勢間の差が聴取可能な文を特定して音響的手掛かりを解明する、とする。1)のうち姿勢変化に伴う母音フォルマント周波数変化については、現在計測中の2013年度収集データと2012年に計測したデータを合わせて再分析を行い、変化の実態を解明する。姿勢変化の母音調音への影響については2014年度にもWAVE speech research systemを用いて調音データ収集を行い、被験者数を増やして姿勢間での調音の差を解明する。又、1)2)に加えて、頸部と頭部の角度が発話の音響特徴、特に基本周波数に及ぼす影響を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はプロジェクト最終年度であり、本年度の交付額はほぼ使い切っている。 WAVE Speech Research Systemをレンタルしての最終実験を行い、かつ全データの分析のため学生アルバイトを雇用する。
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