研究課題/領域番号 |
24652087
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
天野 成昭 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 教授 (90396119)
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研究分担者 |
牧 勝弘 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 准教授 (50447033)
榊原 健一 北海道医療大学, 心理科学部, 准教授 (80396168)
山川 仁子 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 助教 (80455196)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音声 / 知覚 / 生成 / 範疇 / 音素 / シミュレーション |
研究概要 |
日本語の破擦子音/ts/および摩擦子音/s/を区別する音響的特徴は,摩擦部における立ち上がりの時間長および定常部+立ち下がり部の時間長であることが分かっている。そこで,これらの時間長を制御して/ts/-/s/の刺激連続体を構成した。その刺激連続体中の刺激音を日本語母語話者に呈示し,/ts/または/s/を同定する知覚実験を行い,/ts/と/s/の知覚範疇データを得た。一方,独自に開発した聴神経ネットワークモデルを用いて,/ts/と/s/の知覚メカニズムのシミュレーションを実施し,刺激連続体中の刺激音をモデルに入力した場合の出力を計算した。聴神経ネットワークモデルの出力と知覚範疇データと比較したところ,摩擦部の立ち上がりの時間長の情報表現に関与すると推測された聴神経ネットワークモデルの発火パタンは,予想に反してほとんど関与していないことが示された。また,摩擦部の定常部+立ち下がり部の時間長の情報表現に関与すると推測された聴神経ネットワークモデルの発火数および位相同期発火特性も,知覚範疇データを十分には説明できないことが明らかになった。このシミュレーション結果は,聴覚の抹消系における情報表現では/ts/と/s/の範疇的知覚を説明できないことと,/ts/と/s/の範疇的知覚は大脳中枢系における神経情報処理において実現されている可能性を示唆している。この知見は音声知覚の基盤を解明する上で重要な示唆を与える。すなわち,人間における音声知覚は,他の哺乳類と類似した聴覚末梢系の特徴抽出と共通した機能によって実現されているという従来の知見に対し,音声の範疇的知覚を実現するには,そのような聴覚末梢系の特徴抽出による情報だけでは不十分であり,大脳中枢系における「言語的」情報処理が必要であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音声知覚の解析および音声知覚のシミュレーションは順調に研究が進み,日本音響学会等で複数の研究成果を発表することができた。これは予想以上の進捗であった。音声生成の生理計測は予備検討にとどまり,当初の計画よりもやや遅れが生じた。これらを総合すると,全体としてはほぼ順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
音声生成の生理計測実験に重点を置き,そのデータ取得と解析を,研究代表者・分担者の全員が協力して精力的に進める。これによって,やや遅れぎみである当該研究項目の進捗を他の研究項目の進捗とほぼ同等となるようにする。音声知覚・音声生成のデータを揃え,翌年度に両者を付き合わせた総合的解析が可能となるように研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
音声生成の生理計測実験において,実施上での問題点が予想よりも多く生じ,24年度内の本実験の実施が困難となったため,本来,その実験に充てるべき助成金の一部を25年度に繰り越すことになった。繰り越した当該助成金は,25年度の助成金と合わせ,25年度における音声生成の生理計測実験の実施に必要となる機材,実験参加者への謝金,実験用の消耗品等に充てるとともに,研究発表に必要となる参加費・旅費等に充てる計画である。
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