最終年度に実施しえた研究は、(1)全期間中に成し得た、平安期の「平仮名」を含む仮名に関わる書記用語の整理と、(2)平安期の仮名が漢字から必ずしも離脱できているわけではないことの可能性の指摘である。また、新たな発展的視点として、(3)女手仮名に付随する連綿に関する対立した議論を解決すべく、句読法というより大きな観点から、書記を捉えなおすことを行った。以下(1)~(3)について簡単に説明する。 (1)で指摘した重要な点は、「仮名」「女手」「男手」「草仮名」「万葉仮名」「平仮名」という用語が歴史的にどのような意味で用いられてきたかを、システマティックに捉えなおした点である。これにより、「女手・男手」は、仮名書体の名称であること。「草仮名」とは、草書体漢字を仮名として用いた美術的書体であること。「仮名」とは本来、漢字の仮借用法を指すものであり、現代でいう万葉仮名そのものを指す名称であったこと。そして「平仮名」とは、その「仮名」の代用書体であることを指摘した。よって、その意味で「万葉仮名」という用語を上代の「仮名」に対して用いるのは望ましくないことも指摘した。加えていえば「万葉仮名」という用語は、近世中期あたりから、現代とは異なる意味で用いられた語である。(2)としては、平安期によく用いられていた女手の仮名の字母が、それまでに用いられていた「上代仮名」(上代に用いられていた「仮名」をこのように命名)と必ずしも直接つながるわけではなく、むしろ大陸における草行書体漢字と密接な関係があることを指摘した。(3)としては、女手仮名と切り離せない連綿という技法を句読法の一種として認められるかどうか、という斯界において対立したままになっている議論を進めるため、句読法を音声言語における分節機能と対比させ検討し、句読法とみなしてよい、という結論を得るに及んだ。
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