研究課題/領域番号 |
24652098
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
牲川 波都季 秋田大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (30339733)
|
研究分担者 |
市嶋 典子 秋田大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90530585)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 複言語・複文化主義 / 異文化コミュニケーション / グリーンツーリズム / 言語教育思想 |
研究概要 |
本年度の前期には,複言語・複文化主義の現時点での理論的達成について研究者1名に聞き取り調査を行い,それを踏まえて,関連する代表的な文献(Coste, D., Moore, D., & Zarate, G. 1997,Council of Europe 2001,Council of Europe 2007)を考察し,その成果を牲川(2013)として刊行した。これにより,現在の複言語・複文化主義は,すべての人間が複言語・複文化能力を全体的には有しているとしながらも,それを教育することを強調していることが,特定言語というものを教育対象として実体化・階層化させるだけでななく,その教育を受けうる者と受けえない者と階層化を促しうると指摘した。いわゆる異言語・異文化への接触経験が少ない人々の中に,複言語・複文化能力を見出すことの意義を示す成果であり,本研究課題の意義を理論的に支えうる。 後期にはまず,11月に牲川(研究代表者)と市嶋(研究分担者)が,本研究の調査フィールドである仙北市西木町にて,留学生対象の一泊二日の農業体験ツアーに同行し,参与観察を行うとともに音声データを収録した。また12月には牲川・市嶋で,先の農業体験と同じメンバーが集まる収穫感謝祭ツアーに参加し,参与観察・音声データ収録を行った。その後,音声データを考察し,留学生とグリーンツーリズム運営農家とのコミュニケーション場面の考察を進めている。この成果の一部は,2013年4月に『農家に学ぶ留学生受入の思想と方法――秋田県仙北市西木町のグリーン・ツーリズム事例集』として,ウェブサイトで公開した(http://segawa.matrix.jp/dat/leaf2013.pdf)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた,音声データから,グリーン・ツーリズム運営農業従事者と留学生との間のコミュニケーション方略の特徴を考察・記述するまでには至らなかったが,市嶋が中心となって一度目の考察は終えており,2013年5月中には牲川と二度目の考察を終える予定である。一泊二日と一日間の,留学生と農業従事者との会話場面は非常に長時間に及んでおりその考察に予想以上の時間がかかっているが,間もなく終える予定であり,今後の研究の進展に大きな影響を与えるものではない。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はコミュニケーション方略の特徴を記述し,その上で農業従事者に対するフォローアップインタビューを行う。これにより,なぜこうした方略をとったのかを把握し,背後にある言語観・文化観などの思想に迫りたい。 具体的には,5月中に音声データの考察を終える。特に,ほとんど日本語でコミュニケーションを図ることができない留学生といかにして意思疎通を図り,いかに留学生がリラックスし満足する農業体験を提供しているかに着目してまとめる。その結果は,2013年の日本語教育学会秋季大会の口頭発表に応募の予定である。 6月にはフォローアップインタビューの質問項目を,牲川・市嶋とで決定し,インタビュー方法についても準備を進める。 7・8月にインタビューを実施し,9・10月の考察から農業従事者のもつ言語観・文化観を導出する。インタビュー調査結果の考察にあたっては,農村地域文化に詳しい連携研究者・高村とともに確認することで解釈の妥当性を高める。 11月~2014年1月にはインタビュー調査の結果を総括し,グリーン・ツーリズム運営農業従事者のもつ複言語・複文化能力と,その能力を可能にする思想群に関する論文を執筆し発表する。発表媒体は,秋田大学国際交流センターの紀要を予定している。複数の国民・民族の言語・文化に触れることがなくとも,複言語・複文化能力は持ちうるという仮説を,説得的に論証するためには,事例を十分に挙げ,そうした人々の用いる複言語・複文化能力の実態を示す必要がある。したがって本研究の最初の公表は,字数制限の少ない紀要が適切である。 2・3月には,論文に掲載できなかった事例も資料として加え,報告書を作成しウェブサイトで公開するとともに研究分担者らとともに学会等で研究結果を発表する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は,秋田県仙北市西木町において,インタビュー調査を複数回実施する(国内旅費)。このインタビューの音声データおよび2012年度に収集した音声データは,牲川・市嶋が特に重要な場面を選択したのち,秋田方言を理解できる研究補助者に文字化を依頼する(人件費・謝金)。 また,仙北市西木町のグリーンツーリズム運営農家の言語観・文化観をより詳細に考察するためには,これが生まれてきた歴史・社会的背景を理解する必要があるため,仙北市関連文献を収集する(物品費)ほか,地域史に詳しい関係者への聞き取りも行う(人件費・謝金)。 本研究成果を言語教育全体への普遍的提案とするためには,複言語・複文化主義および言語教育思想に関連する国際研究集会などに参加し,最新の知見を得ておく必要がある(国内旅費)。秋以降は日本語教育学会等での発表を予定している(国内旅費)。 これらの研究の成果は,2012年度の研究の成果である『農家に学ぶ留学生受入の思想と方法――秋田県仙北市西木町のグリーン・ツーリズム事例集』と合わせ,ウェブサイトにて公開するとともに,総量が大きくなると予想されるため,紙媒体としての印刷製本も予定している(その他)。
|