研究課題/領域番号 |
24652118
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松原 緑 名古屋大学, 教養教育院, 准教授 (00547036)
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キーワード | 第二言語習得 / アウトプット / 運用能力 / ワーキングメモリ / ストラテジー / カバー率 / タスク |
研究概要 |
本研究課題の2年目は、第二言語学習者が目標言語で意思の疎通を図る際に、ワーキング・メモリの容量(WMC)が、オンライン処理を必要とする口頭産出(SP)とオフライン処理の記述産出(WP)において生じる運用能力の差に、どのように影響を及ぼすかを検証する。通常オンライン処理を必要とするSPでは、「何を言うか」と、それを「どう表現するか」の処理を即時に行っている。一方、オフライン処理のWPでは、SPと比較してタスク・デマンドは低いと考えられる。本実験では産出タスクにおいて「何を言うか」についての自由度を制限することにより、タスク・デマンドに3段階の変化をつけ、WMCがどのように影響するかを調べる。 平成25年度は、前年度、実験参加者(総数35名)を対象として採集したワーキング・メモリの測定データ、並びに、「自由度」の異なる3種類のタスク(1) 指定日本文の訳出、(2) 6コマ漫画のストーリー説明、(3) 自由意見の主張 の産出データの分析に着手した。まず、第一段階として、WMCが自由度の低いタスク(1) におけるSPとWPのギャップに及ぼす影響を分析した。その結果、自由度の低いタスクにおいて、WMCとギャップの間には統計的に有意な係数は得られなかったが、一方で英語習熟度とギャップの間には負の相関が認められた。また、WMCと英語習熟度の間には正の相関関係が認められた。この分析結果を国内学会で口頭発表を行い、その後論文にまとめた。 次に自由度の高いタスク(3) について、同様に分析を行った。その結果、WMCとSPとWPのギャップの間には統計的に有意とは言えないまでも、自由度の低いタスク(1) の場合と比較して、やや弱い負の相関が認められた。またタスク(1) と同様、英語習熟度とギャップの間には負の相関が認められた。この分析結果を海外学会において口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は採集したデータの内、まずワーキング・メモリの容量を測定したリーディング・スパン・テストの得点化をDaneman & Carpenter (1980) の評定方式に準拠して行った。次に「自由度」の異なる3種類のタスクのうち、自由度の最も低い指定日本文の訳出タスクと自由度の最も高い自由意見の主張の産出データの分析に着手し、その結果をそれぞれまとめた。当初の予定通り、国内1回(全国英語教育学会)、海外1回(APLX)の口頭発表を行い、その後、国内の学会誌に論文としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度はワーキング・メモリの容量(WMC)が自由度の異なる3種類のタスク全てを対象に、口頭産出(SP)と記述産出(WP)のギャップに与える影響を比較分析し、その結果をまとめる。より正確な分析ができるように、WMCの得点化の方法に改良を加える。これまでリーディング・スパン・テストの採点はDaneman & Carpenter (1980) の採点方式に準拠し得点化を行ったが、よりWMCを詳細に捉えることのできるFriedman & Miyake (2005) の採点方法を採用し、再分析を試みる。 また、実験参加者に対しタスク終了後に行ったアンケート結果を参考に、実験結果に考察を加える。最終的には日本人英語学習者が苦手とするSPにおいて、自分の持ち合わせている能力を十分に発揮するための有効な学習者ストラテジーについて、提言する事につなげることが今後の課題である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費が節約できたため、僅かながら差額が生じた。 研究の最終年度となるため、主に研究結果の報告に使用する。現時点で口頭発表が決定している学会(EuroSLA)の資料作成および参加費の他、渡航経費に使用する。また8月に行われる国内学会、および3月に行われる海外学会での発表を視野に入れ、その準備のための資料作成、並びに参加費、旅費に使用する予定である。
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