研究課題/領域番号 |
24652148
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
手塚 利彰 佛教大学, 歴史学部, 非常勤講師 (20411126)
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研究分担者 |
白館 戒雲 大谷大学, 文学部, 名誉教授 (10179062)
三宅 伸一郎 大谷大学, 文学部, 准教授 (00367921)
山田 勅之 神戸大学, 国際文化学研究科, 研究員 (40582995)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | チベット / ポロン地方 / 近世文書 / 地方行政文書 / 家分文書 / 土地の領有権:裁判 / 国際研究者交流(ドイツ:中国) |
研究概要 |
平成24年度は「カンカル家文書」原本に対するデジタル保存の作業に取り組んだ。このデジタル保存は【本文書の公刊およびインターネット上での公開により、本文書をより利用しやすいかたちで研究者に提供する】という本事業の目的のための土台となる作業で、具体的には「デジタルカメラによる文書の写真撮影」と、「ウメ(=チベット文字の草書体・行書体)によって筆記されている文書をウチェン(=チベット文字の活字体)で入力する」という2種の作業からなる。文書をひととおり写真撮影したことにより、以後は原本にこれ以上の負担をかけることなく保存しつつ、文書の文面を自由に閲覧、分析の対象とすることが可能となった。文書の文面の入力作業は、さっそくこの写真を用いて行っている。 【写真撮影と目録の作成、修理見積】6月3日,7月20~21日,「カンカル家文書」全45点に対して、外観、文字記載部分の接写、印章捺印部分の接写など、複数の基準による写真撮影を行った。各文件ごとに発令者・受領者・発令年月日・内容・サイズ・書体・形状・紙質などを確認 した。8月2日、専門業者(坂田墨珠堂・滋賀県大津市)に文書の破損部の修理見積もりを依頼。 【翻字作業】研究分担者三宅伸一郎によるチベット文字の草書体”キュク”の講習を3回実施。この講習は一般にも公開された。研究代表者手塚・分担者山田・協力者日高・大西・黒田の各人に担当文書を割り当て、9月8日~3月16日にかけて、ウメによって記された原本の文面をウチェンによって入力する翻字作業にとりくんだ。 【海外研究者との交流】3月18日から23日にかけてドイツおよび中国を訪問し、ボン大学のオリエント・アジア研究所チベット・モンゴル学科の研究者たちおよび中国社会科学院(北京)のチンゲル氏と接触し、 情報交換および平成26年度に開催される国際シンポジウムへの出席依頼を行い、あらためて内諾を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本事業は西チベット・ポロン地方の名望家カンカル家が伝えてきた近世文書(「カンカル家文書」)45点を対象に、その保存と解読、活用を目的とし、(1)文書のデジ タル保存化、(2)公開に向けた文献学的整理(各文件における発令者・受領者・発令年月日・内容・サイズ・書体・形状・紙質の 確認や、目録・分類・注釈・索引の作成など)、(3)各文件に対する解読・翻訳などの作業に3年をかけて取り組むものである。(3)に関連して、ポロン地方の現地調査とネパールやインド等に在住するインフォーマント(カンカル家の人々、旧体制時代(1959年以前)のチベットを知る人々)に対する聞き取り調査、研究の成果発表及び発展のための海外研究者を招いた国際シンポジウムの開催なども予定している。 平成24年度(2012年度)の作業としては「文書の保存」に関わる作業と、「文献学的整理」のうち、物理的形状に関する項目についての調査を行った。 【文書の保存】(デジタルカメラによるカラー写真での撮影)「カンカル家文書」全45件について、鮮明なカラー写真を撮影した。(テキスト入力作業)判読の困難な断簡4点をのぞく41件について、ウチェンによる入力作業を完了した。 【文献学的整理】「カンカル家文書」の内容・構成について、ポロン地方の公職に関わる文書41件、僧院の財産管理にかかわる冊子3件、7点の断簡を1枚の紙でくるんで保存した1件からなることを確認。また、文書のサイズ・書体・形状・紙質・押印の有無など、物理的な形状に関する項目に関する調査を全45件に対して完了した。
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今後の研究の推進方策 |
【読解と翻訳】引き続き文書の読解作業を継続する。 「カンカル家文書」は、チベットの法制や地方統治、社会の実態がゾン(県)レベル、集落レベル、家レベルにおいて記されており、従来の法典史料では見出せない役職名、税目名が頻出し、翻訳に際しては、訳者たちが新たな訳語を決めていく作業が多数必要となる。解明できない用語、用例、文体、及び同定できない地名を整理し、現地調査の準備をしておく。 【現地調査と国際シンポジウムの開催】日本での作業で解決できなかった用語、用例、文体および同定できない地名を解決するため、現地 調査を実施する(平成25年度夏を予定)。調査は、カンカル家の関係者、1959年以前に中央政府の官僚、地方官衙の吏員として当時のチベット公文書の読解について訓練を受けた経験のある人々などをインフォーマントとする聞き取り調査と、地名同定のため、チベット自治区ポロン地方に赴いての現地調査を行う。調査国はネパール、インド、中国の3ヶ国 、調査期間は2~3週間とする。また、研究の成果発表及び発展のため、海外の研究者を招いて国際シンポジウムを開催する。招聘者としては 、ボン大学のモンゴル・チベット学科から近世チベット史の研究者を1名、中国社会科学院より、歴史研究所助理研究員の青格力(チンゲル)氏を予定している。 【「カンカル家文書」の公開】文書を、現物のカラー写真、チベット文字ウチェン体テキスト、ローマ字転写 テキストの3種類で公開する。本課題の研究成果を公開するWebページを設けてインターネット上で公開すると ともに、紙媒体でも公刊する。 【報告書の公刊】報告書として、文書そのものの保存・公開を目的とした「写真・テキスト編」と、文書の読解・分析、国際シンポジウムから得られた知見を公開する「研究編」を作成する。 将来的には『研究成果公開促進費』に申請して研究成果の出版を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度におけるおもな「研究費用の使用計画」としては、 【ドイツ・北京への訪問】【ドイツ・北京への訪問】実施は前年度であるが、費用の支出は平成25年度分から行う(平成 24年度未使用額73,995円を含める)。 研究代表者手塚利彰、研究協力者日高俊・大西啓司を派遣した。28万5千円 【現地調査・インフォーマントへの聞き取り調査】(平成25年度8~9月実施予定)研究代表者手塚・分担者山田・協力者日高・大西を派遣する予定。120万円。 【文献の購入】ボン大学のモンゴル・チベット学科では、ドイツ国内で所蔵されている近世チベット文書を、現物写真に翻字テキストを附して出版するチベット語抄本・版本シリーズ(Tibetische Handschriften und Blockdrucke)を計17冊刊行している。日本では部分的に購入している機関は散見されるが、全冊を揃えたところはない。20万円。 などがある。
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