研究概要 |
平成25年度も引き続きオーストリア国民論の歴史的特徴について検討を行った。なかでも戦間期から第二次世界大戦後にかけて大きな問題系となっていたオーストリア国民の創出という課題の解決方法を明らかにするために、40年代から50年代にかけて行われた戦犯訴追の政策実践が変容する論理とその帰結を同時代史料に基づき分析した。とりわけ、リンツ人民裁判の訴追状況に対する地元メディアの反応を検討するとともに、米占領下の上オーストリア州およびザルツブルクにおける人民裁判への反応を調査した。そして、ナチズムと戦争の経験を、ドイツ国民ではないもう一つのオーストリア国民の認識枠組みへと統合していく政治社会的な動きを歴史的に跡付ける作業を進めた。25年5月には、来日中であったヘルムート・コンラート教授を特別講演会に招へいし、オーストリアの最新の研究状況に関する講演をしていただき、知見を深めるとともに、これまでの研究成果と今後の研究の方向性に関する意見交換を行い、プロジェクトの進捗状況に関する確認を行った。研究成果の一部は、”Creating a Victimised Nation: The Politics of the Austrian People’s Courts and High Treason”, Jie-Hyun Lim, Barbara Walker and Peter Lambert (eds.), Mass Dictatorship and Memory as Ever Present Past, Palgrave Macmillan: Basingstoke, Hampshire, 2013, pp. 62-83、大津留厚、水野博子ほか編『ハプスブルク史研究入門――歴史のラビリンスへの招待――』(昭和堂、2013年)として刊行した。
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