研究課題/領域番号 |
24652155
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 俊夫 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 教授 (10135387)
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研究分担者 |
山田 哲也 (財)元興寺文化財研究所, その他部局等, 研究員 (80261212)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 放射性炭素年代測定 / 加速器質量分析 / 炭素抽出 / 炭素回収率 / 石英管封管法 / 高周波加熱炉 / 古代鉄製品 / 鉄サビの年代測定 |
研究概要 |
古代の鉄製品の製作年代は,製鉄の時に酸化鉄の還元剤として用いられた木炭由来の炭素が鉄中にわずかに残っており,その炭素を回収して放射性炭素年代測定を行うことから推定されている.これまでの鉄中の炭素抽出は,高周波加熱炉を用いて,高周波加熱と同時に酸素と金属鉄との酸化発熱反応で高温にして金属鉄を溶融して,金属鉄中の炭素を二酸化炭素として回収することが一般的に行われてきた.しかしこの方法では,加熱炉装置とCO2 の分離・抽出真空ラインが必要となり,更に手間のかかる実験となる.そこで,名古屋大学のAMS施設では別なCO2抽出方法として封管法による鉄中の炭素抽出の検討を開始した.今年度は,予備実験として,炭素含有率が明らかな鉄試料について,封管法を適用してCO2を抽出しその14C濃度(年代)を測定した. 炭素抽出実験では,削り状の鉄を外径6mmの石英管に入れ,それを鉄試料の重量の2倍強の酸化銅と共に外径9mmの石英管に入れ,真空に排気したあと石英管を封じきって,1000°Cで15時間加熱した.燃焼ガス中のCO2を精製・回収し,グラファイトに変えて,名古屋大学のタンデトロン加速器質量分析計を用いて,その14C濃度(見かけの年代)を測定した. 今回実施した金属鉄試料に含まれる炭素の抽出実験の結果,及び今後の検討課題として,以下の4点が明らかとなった.(1) 封管法で削り状の鉄試料中の炭素が抽出できる.(炭素回収率:75%~100%)(2) 用いる鉄試料の量が少ないほど,炭素回収率は高い.(鉄試料の重量が酸化銅の15%以下の場合には炭素回収率は100%に達する.(3) 表面積/体積比の高い微粒子状や削り状の鉄では,鉄中炭素の回収ができることが明らかとなった.今後,おおきめの鉄塊試料をもちいてテストする必要がある.(4) 14C年代については,高周波加熱炉法と比較する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では,下記の3点に注目した.(1) 試料鉄の形状について検討する.石英管で加熱する方法は1000°C以下であるため,金属鉄をできるだけ細かくするための技術を開発する.そして鉄試料の形状と抽出される炭素量の関係を調べる.次に,(2) 加熱温度と加熱時間について検討する.石英は1000°C以上になると軟化するため,1000°Cまでの加熱が限界である.そこで,加熱時間を長くして,含有炭素の酸化効率を向上させる可能性を探る.このために,炭素の回収効率と加熱時間の関係を調べる.さらに,(3) 鉄試料中炭素の抽出の際に外来炭素による汚染の有無やその程度を調査する.炭素抽出の際の外来炭素による汚染の程度は,年代の判った鉄試料を用いて調べる. (1) については,大学内の金属工作室の協力により鉄試料を細かく削ることができた.(2) については,1000°C,15時間の加熱で達成できることを確認した.(3) については,14Cを含まない現代鉄を用いて14Cブランクをテストした.今後は,さらに高周波加熱炉を用いた鉄中炭素の回収法と14C年代を比較する.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,新規の方法による結果を従来の高周波加熱炉による結果と比較する.炭素安定同位体比(13C/12C比)を比較することにより,炭素抽出に際して同位体分別の発生の有無を検討する.また,両方法による年代測定結果の系統的なずれの有無を検討する.これらの検討から,新規抽出法の問題点を調べる.さらに,錆びた鉄試料について14C年代測定の可能性を調査する. 次年度は,研究計画の最後の年度であることから,2年間にわたる研究において得られた結果をとりまとめ,成果の発表を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,鉄中に含まれる炭素を,石英管封管法を用いて回収する研究を主体に行ったため,回収した炭素のAMS 14C年代測定,炭素安定同位体比測定は,限られた件数しかこなせず,研究費を次年度に回すことになった.次年度は,残る課題の研究を推進するために研究費を全額使用することになる.
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