研究課題/領域番号 |
24652155
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 俊夫 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 教授 (10135387)
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研究分担者 |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, その他部局等, 研究員 (80261212)
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キーワード | 放射性炭素年代測定 / 加速器質量分析 / 石英管封管法 / 高周波加熱炉 / 炭素抽出 / 古代鉄製品 / 炭素回収率 / 鉄サビの年代測定 |
研究概要 |
古代の鉄製品の製作年代は,製鉄の時に酸化鉄の還元剤として用いられた木炭由来の炭素が鉄中にわずかに残っており,その炭素を回収して放射性炭素年代測定を行うことから推定されている.これまでの鉄中の炭素抽出は,高周波加熱炉を用いて金属鉄中の炭素を二酸化炭素として回収することが一般的に行われてきた.しかしこの方法では,高周波加熱装置が必要となる.そこで,封管法による鉄中の炭素抽出の検討を開始した.炭素含有率が明らかな鉄試料について,封管法を適用してCO2を抽出しその14C年代を測定した.その結果,(1) 封管法で削り状の鉄試料中の炭素が抽出できる. (2) 用いる鉄試料の量が少ないほど,炭素回収率は高い.(3) さらに,回収した炭素について14C測定を行った結果,現代の溶鉱炉作成鉄について数万年前の年代を示し,微量の現代炭素による汚染を示す年代が得られた. 本年度は鉄サビからの炭素抽出と14C年代測定を行った.その結果以下のことが明らかとなった.(1)封管法でサビ鉄試料中の炭素が抽出できることが明らかとなった.残念ながら,炭素含有率が不明のため回収率は確認できない.(2)今回処理した9 個のサビ鉄試料のうち,5 個が加熱中に破裂した.炭素回収のため燃焼に用いるサビ鉄試料の量の調節を適正に行う必要がある.(3)一試料のみであるが,鉄サビから回収された炭素の14C 年代を測定した.測定結果は,鉄サビ中の炭素として元来”dead carbon”であったものが,見かけの14C年代2949±24 BP を示した.これは,現代炭素が約70%混入していることに相当する.(4)今後,年代が既知の古代鉄のサビをこの方法で分析することにより,サビによる鉄の製造年代推定の確からしさを検討する予定である.今回の実験結果が示すところでは,サビの発生プロセスにおいて鉄試料の外界からの炭素の混入が推察される. .
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属鉄からの炭素抽出法はほぼ成功した.次に,鉄さびから抽出される炭素を用いて,鉄の作成年代を推定する方法を検討した.鉄サビから炭素を抽出する方法を検討した.一つ目の試料は,佐賀県の製鉄炉跡から回収された鉄サビである.土壌に覆われたサビ鉄を含む褐色の塊から鉄サビと思われる部分を採取して3組に分けた.2試料は永久磁石に対する反応は無かったが,一つは永久磁石に対して弱い反応を示した. 二つ目は,長さ5cm 程度の現代の鉄釘である.表面はサビていたが磁石にしっかりと反応した.三つ目は,大工作業に用いられる鉄釘であり,これらも表面はサビていたが磁石にしっかりと反応した.これらの試料をさらに分割して,試料からの炭素抽出及び14C年代測定を行った.石英管に封管した鉄サビ試料から二酸化炭素を回収するために,5 個の試料につき,電気炉に入れて900°C で8 時間加熱したところ,隣り合う4 個は加熱により破裂してしまった.最左に位置した試料のみが破裂を免れた.そこで,加熱条件については,温度を下げ(850°C ),加熱時間を短く(3 時間)設定した. 破裂を免れた試料について14C 測定が終了した1試料は, 14C 年代として2949±24 BP,δ13C として-15.4±1.0‰が得られている.この試料の起源は,石炭を用いて近代溶鉱炉において製鉄された鉄を起源としており,鉄釘に元々含まれていた炭素は14Cを含まないと考えられる.すなわち,鉄釘が大気中に放置された間に進んだサビ化において,14C を含む炭素が鉄サビ中に付加され,平均的に見かけ上2949 BP に相当する14C 濃度(69.3±0.2 pMC)に落ち着いたものと解釈される.これは,現代炭素が約70%近く混入したことに相当する.以上のように,やや悲観的な実験結果が得られているものの,研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は,2年で結果をまとめる予定であったが研究対象とする試料の確保に手間取って,本来の研究対象となる古代鉄試料,古代鉄が錆びた試料を用いた事件的研究がほとんど出来ていない.このため,これまではもっぱら近代製鉄により作成された鉄試料を用いて炭素抽出実験を行った.すなわち,抽出炭素の14C年代測定結果に対する検討は充分に出来てはいない.もう1年研究を継続する時間的余裕を得たので,以下のような手順で研究を進める. 古代鉄試料を入手して,(1) 従来の高周波加熱炉を用いた抽出法と新手法による炭素収率を比較する.(2) 炭素安定同位体比(13C/12C比)を比較することにより,炭素抽出に際して同位体分別の発生の有無を検討する.(3) 両方法による年代測定結果の系統的なずれの有無を検討する.これらの検討から,新規抽出法の問題点を調べる.さらに,(4) 錆びた鉄試料についても古代鉄起源の錆試料を入手して,上記(1), (2), (3)の項目に関連して14C年代測定の可能性を調査する. 最後に,これまでの実験的研究のまとめから,古代鉄試料の14C年代測定法について,提言を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度内に,錆鉄から炭素の抽出を行い,その炭素の14C年代の測定を行い,錆鉄の歴史年代と14C年代を比較し,錆鉄の14C年代の信頼性を検討する計画であった.歴史年代が不明な錆鉄について,その炭素の抽出および14C年代測定を確実に行えるようなノウハウを確立できた.他方,歴史年代が既知の錆鉄を平成25年度内に入手することができず,錆鉄の14C年代の信頼性を検討することができなかった. そこで,平成26年度に改めて歴史年代が既知の錆鉄を複数個捜し,それらの錆鉄試料の14C年代測定と得られた14C年代と歴史年代との比較することにより,錆鉄の14C年代の信頼性を検討する.また,その成果をシンポジウムで発表を行うこととし,未使用額はこれらの諸経費に充てることとしたい.
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