本年度は研究期間最終年度であった。当初の計画通り、2015年3月に、タイのチェンマイ市において国際引退移動でチェンマイに暮らす日本人にインタビュー調査とアンケート調査を実施した。調査には国立社会保障人口問題研究所の貴志匡博さん、神戸大学研究員の丹羽孝仁さん、神戸大学の学部生、大学院生の参加も得た。約80人へのインタビュー調査の結果、1940年代後半生まれ、大都市圏出身者、男女はいずれもが多いことが確認できた。5年前にも同様な調査を実施したが、過去5年の変化として、チェンマイに通年滞在する者も減少、数週間から数ヶ月の短期滞在者の増加、相対的に経済的余裕のない者の減少が明らかとなった。デフレ状態の日本に比べると、物価上昇率が高いタイ、為替レートの変化(円安)によって、年金が不十分なために通年でタイに滞在しているタイプの移動者が減少し、日本での生活も維持しながら、タイの良い季節のみに来タイし、レクリエーションを楽しむ移動者が増加している。経済的にタイにとどまれない移動者の一部は帰国し、一部はカンボジアなど、より生活費の安い(居住条件は逆に厳しい)国に移動している。日本人の引退移動に関してはタイだけに定住せず、タイと日本の両方に居住場所や人間関係を維持し、両国を行き来するタイプの移動者が増加していることが明らかとなった。また、日本人引退移動者に関して、タイ政府保健省も関心を示しており、医療サービスの提供方法(場合によっては介護需要の調査)などについての研究を始めていることも確認した。今後はタイ政府とも情報交換をしながら、研究を続けたいと考える。
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