研究課題/領域番号 |
24652162
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
由井 義通 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (80243525)
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研究分担者 |
若林 芳樹 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (70191723)
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キーワード | 子育て支援 / 女性就業 / ジェンダー / 子育て広場 / つどいの広場 / まちづくり / 福祉 / 保育 |
研究概要 |
本研究は、ボランタリー部門が担う子育て支援活動の実態を調査・分析することを通して、子育てによるまちづ くりの可能性と地域的条件を明らかにすることを目的とする。これまで地理学では、共働き世帯を対象にした公的保育サービスについて、供給と利用の空間的配分や地域的特徴が主たる対象となってきた。しかし、現在では 共働き世帯に限らない子育て中の親子の居場所や情報交換の場へのニーズが高まっている。こうしたニーズを満たすために、政府は子育て支援拠点事業を進めてきたが、その一環として展開されている「つどいの広場」では、NPO などのボランタリー部門が大きな役割を担っている。本研究は、これを行政と市民との協働による新たな ガバナンスを模索する動きとして捉え、全国各地での事例を調査することにより、多様な主体による子育て支援 をまちづくりにつなげる可能性と課題を検討することを試みた。 これまでの2年間、大都市圏と地方都市圏における子育て広場・つどいの広場と学童保育について、研究協力者の久木元美琴准教授(大分大)とともに共同調査を実施し、その成果のうち東京大都市圏、名古屋大都市圏、広島県呉市郊外、沖縄県那覇市の調査分については国内主要学会で発表してきた。子育てにかかわる地域格差についてはGISによる分析を行い、ドイツで開催された国際地図学会においてポスター発表した。また、女性の就業と保育を取り巻く子育て環境の変化とそれを支援する男性の子育てについては、広島大都市圏と呉市、沖縄県における「育メン」について分析した結果をマカオで開催された国際アジア研究者学会で発表した(採択率30%以下の審査で採択されて発表)。 現在は、東京大都市圏郊外地域におけるNPOによる子育て支援事業を調査対象として聞き取り調査を進めており、期間内に調査報告の成果を上げる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
地方都市における保育状況の調査は、広島県呉市と沖縄県北部と島嶼部を対象に行うことができた。呉市での調査結果は論文化できたので、沖縄県における研究成果については、補足調査と論文化を急ぎたい。 一方、大都市圏郊外地域における子育て支援や保育状況に関する調査は、名古屋大都市圏での調査は研究成果として論文化したものの、東京大都市圏と大阪大都市圏については、横浜市でNPO組織を設立して子育て支援をしている施設や団体への聞き取り調査を行ったのみで、利用者調査がまだ計画段階にとどまっているため、26年度には調査を実施して、大都市郊外、大都市中心部、地方都市を比較しながら、各地域の既存の子育て資源やソーシャルキャピタルの違いに着目しながら、それが当該事業の成立と持続可能性に与える影響を評価することも視野に入れている。特に大都市郊外地域における保育の問題については、今日の社会問題である待機児童対策とも関連した喫緊の問題でもあるので、それに対する地理学からの貢献として、研究成果を挙げたいと考えている。また、人口減少地域を域内に含む地方都市では、少子化と過疎化による乳幼児数の減少などによって、保育施設の統廃合が進みつつあり、その結果として保育に関わる公的サービスを受けることが困難な地域も現れており、それらの地域における保育については本研究を進めるにあたって明らかになった新たな課題である。これについては、本研究では十分に解明できないので、研究協力者の久木元美琴准教授とともに、保育に関わる諸課題の解決としてボランティアベースの保育の状況を明らかにして本研究課題をさらに深化させる必要がある。 また、研究目的で記載した内容で遅れている部分は、まちづくりへの応用についての検討であるが、多様な主体による子育て支援という視点を取り入れたまちづくりについて、H26年度は重点的に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究の総括の年次に当たるので、大都市圏と地方都市の子育て支援組織への調査について補足的調査と研究成果の論文化を中心に研究を遂行する計画である。 本研究課題にかかわる研究成果の発表と論文での公表は、次のような計画である。第一に、地方都市の事例として呉市の郊外地域における子育て支援と保育所の利用者調査についての研究のとりまとめを行い、国内学会で口頭発表し、論文化する。第二に、大都市郊外地域におけるボランティア的な子育て組織として活動している子育て広場について、横浜市などで補足調査を行い、その成果を国際地理学連合ポーランド・クラクフ地域大会で発表し、英文誌に投稿する予定である。第三に、沖縄県で継続して調査しているボランティア的子育て支援施設である学童保育と子育て広場についての調査成果を取りまとめ、国内学会で口頭発表し、論文化して投稿する。第四に、前年度までの調査報告として国際学会で発表した「育メンの研究」について女性就業と男女共同参画社会における家族とボランティア組織による子育てをテーマにして、多様なレベルと形態で取り組まれている子育てについて、地理学からの社会貢献につながるように研究を深化させる予定である。 既にいくつかの審査付きの国際学会において研究成果を発表しているが、日本の子育てについての関心が高いことがわかったので、英語論文での発信も検討したい。 以上の取り組みを総括して、研究協力者の久木元美琴准教授とともに共同調査の成果を取りまとめ、次期科研へ研究を展開が図れるように研究を構想する予定である。 また、まちづくりへの応用についての検討であるが、多様な主体による子育て支援という視点を取り入れたまちづくりのさまざまなレベルでの取り組みについて、H26年度は各種のボランティア組織への聞き取り調査やそれらの子育て支援サービスを受ける利用者の評価についても取り組む予定である。
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