本研究の主眼は、特許のデータを利用して、研究開発とイノベーションの地理的側面を分析することにある。前年度までに研究者向けに整備されたIIP特許データベース(知的財産研究所)をテキストエディタによって編集加工して、出願者の所属組織および組織別出願数の時系列分析を行った。その結果、企業規模が大きくなるほど所属組織の所在地は本社知財部門等に一括され、特許の出願地と実際の研究開発の場所との乖離が問題点となることが示唆された。他方、中小企業や大学・公的研究機関では出願人の所属組織およびその出願地は実際の研究開発の場所を示す傾向にあり、大企業に比べて出願地情報を地理情報として利用することができることがわかった。これらの考察をふまえ、産業技術に関する特許の多くは大企業からの出願であるため、出願人に関する地理情報を付加すべく、学術論文データベースにある研究者・技術者などの著者データを利用して、特許データの空間情報化を試みた。具体的には、半導体技術およびパネル技術の特定技術領域を対象に特許データの抽出を行い、これらの抽出データにおける出願人情報について、電気・電子学会関連の学術論文データベースとのマッチングを行い、出願人情報に対して所属組織および所在地のデータを付加することを試みた。事例とした技術領域においては、社内技報などの業界情報を利用することによって特許出願人と論文著者のマッチング率は10%前後となり、特許データを利用した研究開発の地理的側面を分析するには十分なサンプルを得られることがわかった。サンプルによる分析では、2000年代以降に進展した一連のクラスター政策や大学の技術移転戦略(TLO等)の影響により、政策対象地域における研究開発の活発化が進み、地域間の共同研究が進んだことが示唆された。
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