研究課題/領域番号 |
24652168
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
杉村 和彦 福井県立大学, 学術教養センター, 教授 (40211982)
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研究分担者 |
坂井 真紀子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (70624112)
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キーワード | 参加型開発 / 住民のイニシアティブ / 内発性 / 途上国 / 村誌作り / 応用人類学 / 地元学 / NGO |
研究概要 |
この年は平成23年度から始まった村誌づくりの内容、そのプロセス、成果を村の歴史、文化伝統、経済活動、共同組織、福祉という目ごとに複数回に渡って連関するアクターとワークショップを行い、検討を重ねた。しかし聞き取りを重ねる中、旱魃や飢饉が頻発するゴゴ社会においては、様々な危機をめぐる対応が、この地域に固有の記憶とアイデンティティを作り出しており、この点に注目して集中的に聞き取りを行った。それゆえこの項目は、書かれる地域記述の一つの中心に位置づけられると考えられるが、歴史を<危機への対応史>として描くような歴史記述の方法に関する論点をワークショップにおいて整理する。 また都市化をめぐる村人の記憶に関しても聞き取りを開始した。調査地である都市近郊のズグニ村では、人口の増加に伴って、土地問題が発生しており、地域社会の変化に関する記憶の中でも大きい位置がある。また都市からの住民の移動による、土地の収奪という現象は、農牧世界の生業の危機としても大きな重要性を持っている。それとともに、1960年代から始まったウジャマー村としての社会実験は、村落の形成史をなすものであり、その前後に生じた社会経済組織の改変を住民自身がどのように受け止めているのかということに関してワークショップを通して意見の照合を図る。特にタンザニアの中でもドドマは、ウジャマー村のモデル地区であり、タンザニアの歴史を再構成する上でもそこでの詳細な歴史的証言の整理は重要な意味を有する。 個々人の調査とともに、特にNjaa に関しては、6-7名の長老たちとのグループディスカッションを取り入れて調査活動を行ってきたが、複数で聞き取りの場を設ける方が、被調査者のより鮮明な記憶を取り出すことができて効果的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この年はグループインタビューと個人インタビューを併用する形で、地域のNGOの協力のものとに、研究を展開した。この研究展開は基本的に順調に展開している。平成23年度から始まった村誌づくりの内容、そのプロセス、成果を村の歴史、文化伝統、経済活動、共同組織、福祉という目ごとに複数回に渡って連関するアクターとワークショップを行い、個人のイエンタビューでより詳細なデータの蓄積に努めた。 そのような研究の過程の中でデータの分析検討を重ねたが、その中で、一つの記憶の中心にある「旱魃や飢饉」が焦点化され、村誌の歴史記述の一つの構造の核を見出すことができた。この語りの核を置くことにより、聞き取り内容そのものが、時代的、編年的にもより具体的なものになって来ることが分かった。 ゴゴ社会における歴史記述において「旱魃や飢饉」の重要性は、申請当初より意識していたことであったが、さまざまな調査項目の一つとしての重要性を超えて、このような事象が頻発しない他の地域の歴史記述との大きな差異を感じされるものである。日常的に不安定な状況を前提として生きる生活戦略の記録と語りというような視角まで広げて考えると、平均的な環境とその生活戦略を前提とした歴史像との大きな差異が予想できる。 データ的にはこのような「危機の地域社会」の情報はかなり集められたが、それをどのように整理し、歴史記述の中に位置づけていくかという理論的視角はまだ必ずしも十分ではなく、地域の大学であるドドマ大学の歴史学の協力のもとに、このような記述の枠組みの議論をより深めていくことが、今後の一つの課題であろう。村誌としての全体のバランスもあり、各項目ごとの記述の内容との連関を考えながらも、こうした地域の歴史像のユニークネスを活かしていくことが次年度に向けての課題である。
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今後の研究の推進方策 |
この年は研究プロジェクトの最終年度として、村落の内発的発展にとって、<住民参加型の村誌作り>という事業がどのような役割を果たすかということについて、研究代表者、研究分担者、研究協力者をはじめ、NGO地球緑化の会のズグンゲ氏、椿延子氏、地元の長老や編集委員会のメンバーが加わり検討する。歴史や伝統を軸に<地域社会を記述する>ということは、今日、その意味するものが世代間において大きく異なる。特にワークショップでは、急速に変貌する社会の中で書かれた「歴史」を持たない限り、歴史を忘却してしまう若い世代が、村誌づくりの中で作られつつある記述を村の記憶として、どのようにその社会の未来像の形成のために位置づけようとするのかに焦点を当てて、検討を加える。またそういう村落の中での村民自身が、<地域情報を集積する過程>を欠いたこれまでの村落開発との比較を行う。 以上の課題を中心に、国立ドドマ大学のムワムフーペ教授をはじめとするスワヒリ語科、歴史学、地理学、社会学の教員などが参加して集中的なワークショップを開催する。またこれには歴史学者として高名なダルエスサラーム大学キマンボ教授、またタンザニアの他地域の村落開発に詳しい、ダルエスサラーム大学のマギンビ教授、ソコイネ農業大学のルタトーラ教授などが参加する。 また上記のワークショップに参加したタンザニア研究者、NGO関係者と共同で、『歴史を再発見し、村の未来を作り出すー東アフリカ農牧民の一つの試み』(仮題)という報告書をまとめ、それを整理したうえで、英文でダルエスサラーム大学出版会から形で著書を刊行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、このプロジェクトの中核で活動する現地NGOに予想しない支障があり、村誌づくりの活動が一時中断したことにより、これまで蓄えている音声データを文字化し、それを項目ごとに編集し、全体を統合する編集作業が遅れることになった。特にゴゴの地域誌において重要Njaa(飢饉、食糧不足に)に関する記憶のデータはこの村誌作成にあたって、地域の歴史的展開を明瞭化するきわめて重要な事項であるが、この文字化が遅れたことによって、編集全体の核を確定することができず、編集の全体作業が遅れることとなった。本プロジェクトで予定していた上記の項目についてのワークショップなどができず、その分の予算が残った。 本年は、研究計画の最終年に当たり、対象地域のズグニ村ではNPOの支援のもとに村誌が編集される。その際、平成25年度に現地NGOに予想しない支障により、十分展開できなかった編集が遅れた上記の項目の展開のために予算を使用し、村誌の編集作業を包括的・統合的なものにするためのワークショプなどを行う。 同時に本年はこの研究プロジェクトの核である、村誌が村人の内発的発展のための意識をどのような形で支える可能性があるかについて関係する村人はもとより、近隣に位置する地域の中核大学のドドマ大学の支援を受けてワークショップを行い、本研究の意義と社会的可能性について検討する。
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