研究課題/領域番号 |
24653001
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
葛西 康徳 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (80114437)
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研究分担者 |
桂 紹隆 龍谷大学, 文学部, 教授 (50097903)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 西洋古典 / 基礎法学 / 仏教学 / インド哲学 / 政治学 / ヒンドゥー法 / ウィリアム・ジョーンズ / ダルマ |
研究概要 |
本年の最大の研究成果は、ケンブリッジ大学よりコモン・ローとヒンドゥー法の専門家であるステリオス・トファーリス博士を招聘し、我が国におけるヒンドゥー法の専門家、英米法および日本法の専門家を交えた研究会を3回にわたって開催したことである。我が国では一方で、サンスクリット文献を解読するインド学者、インド社会史研究者、法律家が共通のテーマを掲げて共同研究を行うことはいまだかつて一度もなかった。とファーリス氏の来日により、日本人相互の研究者ネットワークが若手研究者も含め形成されたこの意義は小さくない。 第二に、共同研究者及び連携研究者と研究代表者が、非西洋法の多様性というテーマのもとに共同シンポジウムを開催した。その際研究代表者は西洋法と非西洋法の境界に位置するギリシア法について概観的な考察を行った。 第三に、第二の研究成果からインド法を西洋法たるコモン・ローと非西洋法であるヒンドゥー法の混合物とみる視点が形成された(ミクスト・リーガル・システム)。これは研究代表者が別途に行っている共同研究とも重なる考察である。 最後に、ステリオス・トファーリス氏とは今後も共同研究を継続することについて合意し、すでに2013年夏に、コモン・ローとヒンドゥー法の入門的講義を英国にて日本人向けに提供する計画の準備を行っている。インドに対しては近時その経済発展から急速に関心が高まっているが、伝統法の理解を踏まえた法制度の分析はまだ全く十分ではない。ここに本研究の意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、近代サンスクリット学の創始者であるイギリス人ウィリアム・ジョーンズ(William Jones 1746-1 794)の法律家としての業績を、コモン・ローの歴史とサンスクリット文献解釈の両方の視点から分析することを 通じて、近代ヒンドゥー法理解の原点を解明することを目的とする。近年急速に発展するインド研究にあって、 法分野は伝統的なインド学におけるダルマ研究と実務的ビジネス法研究に分断されており、総体的に把握する試みは全く為されていない。本年度の研究では、かかる研究上の欠陥を埋めるべく、インド古典研究者等との密接な協力関係のもとに、近代ヒンドゥー法研究の原点に立ち返り、その歴史的文脈と原資料の厳密な解釈を踏まえて、ヒンドゥー法研究に新しい視点を提供するための試みを積極的にすすめることができた。。西洋学(古典学と法学)とインド古典学の 両専門家の共同研究のための新たな枠組みの構築を進めることができたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
A 研究代表者チーム (3)イサイオスのジョーンズ訳は、その後の古典研究、特にワイズ(William Wyse, The Speeches of Isaios , Cambridge 1904)と比較・評価する。さらに、相続法における古代ギリシアとコモン・ローの比較、特に、遺 言相続及び遺贈の場合において、遺言の条件が成立しない場合の複雑極まりない相続財産関係に対するジョーン ズの解釈を徹底的に分析する。 (4)ジョーンズの『寄託論』のコモン・ロー上のその後の展開、特に標準的体系書であるJoseph Storyの著書 と比較し、ジョーンズの業績を位置づける。また、(2)の作業の継続として、19世紀契約理論と実務における 影響としてインドの他、旧イギリス植民地国の判例等とも比較する。 B 研究分担者チーム (3)インドの現地法律家達(パンディット)が当時有していた法資料、即ち「ダルマ・ニバンダ」と呼ばれる 一種の綱要書の分析に着手する。パンディットたちは、各自が所有する「ニバンダ」にもとづいて法解釈を行っ ており、「ニバンダ」にはローカルな差異性もある。「寄託」及び「相続」に関する諸「ニバンダ」文献の比較 検討を行う。さらに、統一法たるコモン・ロー出身のジョーンズがかかる差異性に対してとった態度にも考察を 広げたい。 (4)パンディット達はインドにおける伝統的な「解釈規則」に沿って法典を解釈しており、ジョーンズたちが 矛盾を感じた解釈もインドの伝統では正当化される可能性が十分にあることを明らかにする。この際、パンディ ット達が主として依拠していたインド六派哲学の中のミーマーンサー学派の解釈学と論理構造に対して、分担者 および連携研究者(丸井浩)が分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.海外調査 イギリスおよびキプロス(インド法継受) 2.海外研究者との交流 イギリスにおける国際研究集会開催 3.国内での定期的共同研究会開催(法律家とインド学者)
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