近年、洗練された形の「欧米型租税回避」がわが国でも頻繁にみられるようになってきた。外国税額控除余裕枠事件(最判平成17年)、映画フィルムリース事件(最判平成18年)、武富士事件(最判平成23年)などの判決がこれまでに出されているが、未だ判例上の考え方は整理されていない。本研究は、米国においてGregory事件判決(二審判決1934年、上告審判決1935年)以来、判例の積み重ねの中で形成されてきた租税回避否認法理について、わが国への導入の可能性を探ることを目的とした。 研究においては、租税回避否認法理の出発点となったGregory事件判決を中心に取り上げ、この判決が、①租税を回避したいという動機は判決の判断に関係しないとの考え方を前提とし、②目的論的解釈を行って、法令上の文言の要件を満たす取引について法令の効果を否定した判例である、と整理した。 そして、上記①は、日本の学説・判例にもみられる考え方である、②の目的論的解釈は、19世紀の独仏の自由法論の影響を受けたOliver W. HolmesやRoscoe Poundらが米国で唱えた革新主義的な考え方の中から出てきたものである、と整理した。 その上で、Gregory事件判決の解釈手法は、近年のわが国のいくつかの租税法最高裁判例でもみられる解釈手法と同じものであって租税回避の分野では上記外国税額控除余裕枠事件での最高裁の解釈手法と同じものである、米国の租税回避否認法理は、少なくともその出発時点では現在の日本の判例でもみられる考え方と同様である、と結論付けた。 また、その後1950年代でみると、Gregory事件判決は特に法人格の否認が争点となった租税回避事件で一般化されて引用され、そのことが租税回避否認法理の形成につながっていったこと、この過程では、特に、L.Hand判事の書いた判決の影響が大きかったこと、を明らかにした。
|