研究課題/領域番号 |
24653011
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
村上 正子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10312787)
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研究分担者 |
安西 明子 上智大学, 法学部, 教授 (40278247)
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キーワード | ハーグ子奪取条約 / 子の引渡し / 子の返還 / 国際的子の奪取 / 強制執行 / 監護紛争 / 家事調停 |
研究概要 |
今年度は、昨年度の研究成果を踏まえて、家庭裁判所における近時の審判例の分析と実務のあり方、さらには調停等を活用した友好的解決方法等について、さらに研究を行った。 家庭裁判所における近時の審判例の分析については、最近公刊された日本国内における子の引渡しに関する裁判例を題材にして、今後ハーグ条約実施法がどのように運用されるべきか、およびハーグ条約実施法の成立とその運用が国内事例の運用にどのような影響を与えるかを検討した。そして現在の実務が、ハーグ条約及びその実施法の想定する3段階の手続、すなわちADR、返還命令の判断手続、返還命令が出た場合の執行手続にそれぞれ対応するような形で審判を行っていることを踏まえ、ハーグ条約実施法を適用すれば具体例がどのように処理されると想定されるか、さらにはハーグ条約実施法が国内事例の処理の仕方にどのような影響を与えるべきかを、執行手続に重点を置いて考察した。 実務のあり方及び調停等を活用した友好的解決方法等については、家事手続と執行手続を専門とする元裁判官を交えた研究会を定期的に開催し、実務的観点から議論を重ね、特に調停等のあり方について多くの示唆を得た。さらには、香港のハーグ国際私法会議のアジア太平洋事務所及び香港家庭裁判所におけるインタビュー調査を行い、ハーグ事案においては事案ごとの特殊性を考慮したきめ細やかな審判が必要であり、国境を越えた裁判官同士の情報交換のシステム(裁判官ネットワーク)の構築と、わが国の調停制度の活用の可能性について考察した。 また、日本における子の監護をめぐる国際紛争は、ハーグ条約に基づく手続だけでは解決できないことから、既存の手続による解決をいかにハーグ条約の理念に即したものにしていくか、子の監護をめぐる国際紛争の統一的処理の可能性について、米国における統一的処理を参考にして考察を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、家庭裁判所における実務経験を有する研究者との研究会を開催し、公刊審判例には公表されていない実情等の資料を収集・調査すること、またハーグ加盟国がまだ少ないアジア諸国の中でも相当な経験を持つ香港における実務についての調査も行った。その結果、執行手続においても、執行官による直接強制ではなく、話し合い等の友好的解決を目指すことが重要であることがわかった。この点について、当初の計画に新たな目的が加わった。他方で、当初予定していた欧州諸国の調査が、先方との予定調整の不備により適わなかったため、それについては次年度に持ち越しとなった。以上の理由から、現在までの達成度はやや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今までの研究の総括という意味で、執行の枠組みの具体的な運用指針を明らかにするとともに、友好的解決(ADR)がその中でいかに位置づけられるかという新たな観点も踏まえたうえで研究成果をまとてていく予定である。 その際には、欧州の中でも特に調停の実績があるとされるオランダにおける現状を調査することも予定している。さらに、日本における裁判官ネットワークの構築可能性や、それに代替する制度のあり方等についても検討を加え、総括に組み入れていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は欧州諸国における資料収集・調査を予定していたが、共同研究者間、さらには先方との日程調整が合わなかったため、やむを得ず次年度に持ち越すこととなった。 次年度は、持ちこされた欧州諸国における資料収集・調査を年度の早い段階で実行するとともに、研究成果の公表も視野にいれ、研究会を定期的に開催する予定である。必要に応じて、専門的知識の提供やインタビュー等調査協力に対して調査協力費用として謝金を、さらに収集した資料をデーター入力する際の短期雇用者に対して報酬を支払うことも予定している。
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