前年度までに引き続き、先行研究の収集・分析に努めると共に、大きな動きのあった二つの現象を追跡することに努めた。第一に、世界アンチドーピング機構のドーピング規程が2013年に改定され、新規程が2015年から実施された。その改定の過程と、新規程の実施に向けての取組を調査するのが大きな課題となった。さらに、ヨーロッパ人権裁判所に提訴されたいくつかのドーピング事件(係属中)について、その経緯の調査も行った。加えて、ドーピング仲裁制度の根底を否定するかのごときドイツのPechstein事件地裁判決(2014年)は極めて重要であり、ドイツにおける議論をフォローすると共に、スポーツ法の枠を超えて仲裁法全般にも目を配りつつPechstein地裁判決の正確な射程を理解することを試みた。さらに、2015年1月になり、異なる論理で類似の結論に達したPechstein事件高裁判決が出され、その分析検討にも着手した。本研究の観点からは各国国内におけるドーピング規制のあり方について正確な情報を得ることが不可欠であり、スポーツ法の中心地であるスイス法および上記のドイツ法に加え、フランス法およびベルギー法について調査を深めた。また、欧州評議会(the Council of Europe)においてドーピング問題についての組織的な変更が見られたため、その変更についても調査を行い、その影響について検討を行った。さらに、欧州連合(EU)は、ドーピングそのものには関係していないものの、競争法等との関係でEU法の影響が見られるため、EU法についても調査した。
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