一昨年度に引き続き,前年度末にもスペインへ渡航して文献ならびに裁判例の収集に努めた他,主にバレンシア大学法学部において学術関係者への聞き取り調査を行った。 重点的に収集したのは,文献としては制定法(特に労働者憲章法)に関するコンメンタールや労働協約に関するモノグラフである(ただし,助成を受けた研究費の殆どを渡航旅費として費消したという事情があり,多くの文献は私費を充当して購入した)。 また,労働協約の締結交渉や従業員代表の選出過程において生じた紛争の実態を明らかにするため裁判例の収集に努めた。日本国内からはスペインの判例集にアクセスすることが困難であるという事情があるため,スペイン渡航中にバレンシア大学の図書館を利用して主だった判例を集め,帰国後に読解作業を進めたものである。 聞き取り調査からは,当初の研究計画で想定していた従業員代表の位置づけとスペインにおける実際との相違が浮かび上がってきた。日本にあっては「従業員代表」と「労働組合」は完全に別個の存在であると位置づけられている。スペインの法体系においても制定法の条文上では分離した存在として置かれているものであるが,当事者の意識において両者は密接不可分なものとして捉えられているようである。裁判例をみても従業員代表にまつわる紛争では労働組合が関与している事例が多いという様相が浮かび上がってきた。 本研究を通じて得られた知見については釧路高専紀要を通じて公表することにしており,掲載に向けた準備を進めている。
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