研究課題/領域番号 |
24653017
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒巻 匡 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (50143350)
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キーワード | 刑事訴訟法 / 刑事上訴審 / 控訴 / 事実誤認 / 裁判員裁判 |
研究概要 |
本研究は、わが国の刑事上訴審による「事実誤認審査」の在り方について、戦後60年間暗黙のうちに実務上確立していたと見られる審査手法に根本的疑問を投げかけ、現行刑事訴訟法に本来内在していた、あるべき「事後審査」手法を、具体的かつ明晰な法解釈理論として呈示しようとするものである。 25年度においては、24年度と同様、実施計画書に記載したとおり、既存の公刊邦語文献に加えて、連続的に現れた控訴審の事後審査の在り方を具体的に検討して一定の帰結を導出している一連の最高裁判例の事実関係、審理経過、最高裁の判断内容・判文テキストの集中的専門技術的読解を行った。25年3月時点でも既に新たに2件の判例が現れるなど、最高裁判所の当該研究分野に関する法テキストの創出がなお見込まれるため、いまだ総括的分析には至っていないが、このような読解分析作業はほぼ完了しているので、早晩これをまとめて総合的判例研究として公にする見通しは立てることができた。 これと並行して、比較法研究の素材となる、英米独仏の刑事上訴審に関する基本的な書籍・文献の収集と読解を継続した。また、24年度と同様、裁判員裁判第一審判決の控訴を多数担当している東京高等裁判所刑事部の部内研究会に参加・関与する機会を得て、その議論状況についても逐次把握するよう努めた。また、全国の控訴審実例を網羅的に把握している最高裁判所事務総局刑事局とも随時、意見交換を進めた。 以上の研究状況を踏まえて、大規模な総括論文の構想を進展させるとともに、その大枠にあたる問題意識を簡潔な概説論文の形で敢行した(後記、公刊論文 参照)。また、26年5月に開催される日本刑法学会大会において、分科会「裁判員裁判と控訴審の在り方」を主催設計して実施するため(後記、学会報告予定 参照)、他の研究者及び東京高等裁判所部総括裁判官各1名と共同してその準備検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由) 前記「研究実績の概要」に記載したとおり、研究材料の収集と分析は予定どおり順調に進行しているほか、とりわけ、研究を構想した時点からの予測が的中して、わが国の最高裁判所および高等裁判所が、本研究課題と同一の問題意識から活発な判決活動を展開しているため、学理の側面からこれに影響力を及ぼすべき的確な時機にめぐまれたことが挙げられる。最終年度の総括論文に導入すべき、比較法文献の収集・整理・読解もほぼ計画通り進行しているので、26年度内には、5月の学会報告に加えて、所期の目標である法解釈理論の呈示の基礎準備はほぼ達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
1 研究実施計画に記載したとおり、研究期間の最終年度に当たる平成26年度には、基本的な構想に基づいた判例分析と問題点の指摘を内容とする学会報告を行う(既定 後記参照)ほか、邦語関連文献と関連裁判例の網羅的収集読解を継続すると共に、従前どおり、東京高等裁判所判事、最高裁刑事局、司法研修所刑事裁判教官等を中心とする刑事裁判実務家との意見交換並びに立法史・比較法制度に関する資料の収集分析を継続する。これについて、26年度物品費・国内出張旅費等を使用する。 2 総括的研究論文の基本構想を画定し、可能であれば平成26年度中に論文を脱稿して、法律雑誌に掲載することを目指す。 3 比較法制度分析の過程で、実務技術的事項や法制度の運用実情について、文献調査のみでは把握しがたい事項が生じた場合には、短期間、海外調査を実施する可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外発注した専門図書・実務技術的資料の年度内到着が遅延したため。 次年度使用額は、発注済みの図書・資料が到着ご随時支出する。翌年度分については申請書使用計画どおりに使用し、26年度内にすべて支出できる見込みである。
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