本研究は、わが国の刑事上訴審による「事実誤認審査」の在り方について、戦後60余年間、暗黙のうちに実務上確立していたと見られる審査手法に根本的疑問を投げかけ、現行刑事訴訟法に本来内在していた、あるべき「事後審査」手法を、具体的かつ明晰な法解釈理論として呈示しようとするものである。 本研究の最終年度である26年度においては、既存の邦語文献と網羅的収集を継続していた英米独仏の刑事上訴審に関する基本的な書籍・文献の読解をほぼ完了し、他方で、裁判員裁判に対する控訴審の事実誤認審査について、一定の判断を反復継続している一連の最高裁判例の分析作業に集中した。その過程において、26年5月に開催された日本刑法学会大会において、分科会「裁判員裁判と控訴審の在り方」を主催し、問題提起と基調報告を行った。その準備過程において、所期の目的である、あるべき「事後審査」手法、すなわち第一審の事実認定の合理性審査、「論理則・経験則違反」の有無の審査という基本的な判断枠組みの正当性を裏付ける理論的な枠組みの素案を構成することができた。この理論枠組みは、一連の最高裁判例の判断枠組みを裏付け正当化するものであると共に、今後の上訴審の事実誤認審査を主導してゆくものと見込まれ、わが国の控訴審実務の将来に一定の影響を及ぼすことができる成果として、本研究の主要な目的は達せられたと評価できよう。この学会基調報告は、ほぼそのままの形で平成27年夏頃に『刑法雑誌』誌上で公表される見込みである。 もっとも、この論説は、本研究期間内に実施した研究活動のうち、わが国の裁判実務に関する一端を公表したにとどまり、そこで呈示した理論枠組みや事後審査手法をより説得的かつ学問的に裏付ける作業は、いまだ途上にある。このため、期間内に実施した比較法研究の紹介も含めた本格的学術論文の執筆を現在継続中である。
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