研究の成果として次の結論を得た。 すなわち、ジカウィルス等、ヒトのグローバル的移動により胎児に深刻な身体障害をもたらせる妊婦の感染症の世界的拡散が懸念されている。わが国では、医療機関が胎児に対する医療的手当を施しても、胎児に対し保険的保護を直接的に与える(民間)保険契約は存在しないし、一部の胎児治療を除いて、(公的)健康保険の適用は認められていない。 医療技術の高度な発展により胎児手術も可能となっているが、当該手術が先進医療に係る部分は高額となりその費用負担は一般に胎児の親に重くのしかかる。(民間)胎児保険を創設する意義はここにある。 胎児保険契約は、保険法上、①傷害疾病損害保険契約か、②傷害疾病定額保険契約か、③無名保険契約かが問題となる。①の被保険者は「母親」であり、その者が損害てん補請求権を取得する。②は、モラルハザード誘発防止と胎児と母親の利害衝突を避けるため、被保険者と保険金受取人を「母親」と定めるべきである。③では、被保険者は「胎児」であり、保険金請求権者は「母親」と定めるべきである。 母親の「喫煙又は飲酒の習慣の有無」等を質問事項とした告知義務を課すべきである。中絶手術は、多胎による選択的中絶手術を除いて、原則として胎児治療とは認められず、胎児保険給付の対象外となる。「逆選択」回避のため、妊娠18週間目以降は加入できないという加入制限が必要であり、医療機関内の倫理審査委員会を設置し、胎児治療に伴う母子間の利害衝突を回避する措置を講じることも求められる。 なお、胎児保険の普及のためのマイクロインシュアランスの応用については、わが国で、は、少額短期保険を発展させる方法が考えられる。ただし、支払保険金額が制限されており、その点で、胎児保険の先進医療に係る技術部分(の費用)の女性の経済的需要を満足させ得るかについてなお検討を要する。
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