最終年度である2014(平成26)年度は,①前年度に引き続きオーストラリアと韓国への出張調査を実施し,②研究成果を日本医事法学会のワークショップで報告し,③英語論文を執筆した(掲載は2015年度)。 まず,オーストラリアではシドニー及びメルボルンで,シドニー大学及びメルボルン大学の研究者及び裁判官,バリスターやソリシターなどの実務家と面談し,オーストラリアの医師民事責任の分野で,実体法的には伝統的な不法行為構成と並んで契約構成にも関心が向かいつつあるということと,訴訟法的には専門家の知見に活用についてコンカレント・エヴィデンスという新たな方式が広く採用されていることが判明した。さらに再生医療や研究倫理に関して,日本の状況について関心を向けられていることが分かり,情報発信の必要性を認識した。 韓国では,医療紛争調停仲裁院,法院(裁判所)の医療専担部,医療問題を考える弁護士の会にインタビューを行い,仲裁院の鑑定制度が裁判所の医療訴訟でも活用されていることと,鑑定の内容については評価が分かれていることが明らかになった。 医事法学会では,コンカレント・エヴィデンスを中心に報告し,日本の東京地裁におけるカンファレンス鑑定との比較をするなど,日本法への示唆を行い,参加者から多くの質問があった。 さらにオーストラリア等のコモンロー法域における機会喪失論と日本の相当程度の可能性を比較する論文を英語で執筆し,日本の状況を国際的に伝えることを試みた。 研究期間全体を通じて,オーストラリアの医師民事責任の特徴を日本及び韓国と比較しつつ,一定程度明らかにすることができた。今後は特に特徴的であり,イギリス等でも導入されているコンカレント・エヴィデンスなどの専門的知見を口頭で訴訟手続に反映する方式について調査を進めたい。
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