本研究は、欧州逆統合(European Disintegration)をテーマとし、政治体としての欧州の解体メカニズムを探求するものである。その際、欧州連合(EU)に焦点を当わせ、①2005年の憲法的危機から現在進行形のユーロ危機までの過程を経験的にあとづけながら、②ユーゴやソ連などの連邦解体の政治過程との比較の視座から比較政治史的な考察を交錯させ、③研究代表者が取り組んできた『ヨーロッパ統合史』を発展的に書き換えたいと考えている。本研究ではさらにそこから、2つの点で含意を汲み取れるのか見極めたいと考えてきた。一つは、④思想的なもので、主権と逆統合との関わりを検討すること、もう一つは、⑤政策的に、地域主義やグローバル化などの相互依存ガバナンスのあり方への含意を探ることである。 最終年度の本年度も①~⑤の各面において、引き続き深めることができた。とりわけ、近年のユーロ危機をあとづけ、その意味を歴史・政治・経済政策的に探った論考「統合と分断の同時深化こそ欧州の「新常態」」(『中央公論』2015年4月号、144-151頁)を公刊し、 「EUの歴史的軌跡と将来」(『国際問題』2015年5月号)を脱稿した。 さらに、このユーロ危機を通じて明らかになったヨーロッパ社会の内部における断層・断絶に着目し、社会・民主・機能的な正統性の三重苦として『ヨーロッパ統合史』の最現代史を描きなおす作業を終え、その増補版を刊行するにいたった。 これらにより、十分な成果であったと考えられる。 今後は、その成果を、新版の『ヨーロッパ統合史』に向け、全面的な刷新を試みる。そのための大型科研申請を準備しているところである。
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