2012年8月から9月にかけて約10日間、ボスニアを訪ね、まずJICAの帰還難民支援事業の実施現場であるスレブレニツァ市を訪ねた。JICAの事業責任者・大泉泰雅氏からプロジェクトの経緯、現況を詳しく聞いた後、市内各地の牧畜、養蜂、野菜栽培など事業現場を回り、受益者や地区の行政責任者計十数人の聞き取り調査を実施し、市長代行にもプロジェクトの評価を聞いた。さらにセルビア人とボスニア人の和解に向けた協同事業の柱となった灌漑施設や簡易水道、幼稚園などを視察。市内にあるボスニア人虐殺犠牲者やセルビア人犠牲者の慰霊碑を訪ね、今なお残る民族間の対立感情の深層も取材した。 その後、首都サラエボに戻り、ボスニア政府の人権難民省、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官事務所、EU代表部など国際機関の関係者と会い、JICAの事業の評価を聞くとともに、ボスニアの戦後復興や民族和解の進捗状況、2013年のクロアチアのEU加盟がボスニア経済に及ぼす影響などについても取材し、関係資料を収集した。 帰途、ウィーンでボスニアの民族対立の緩和と紛争の再発防止、少数派の人権保護などに当たっている全欧安保協力機構(OSCE)を訪ね、ボスニアの安定と経済発展に対する日本の貢献、とりわけJICAの帰還難民支援事業の評価を聞いた。 現地調査の成果と収集した資料の解析を踏まえ、論文2編を書きあげた。1編は2013年1月発行の長崎県立大学国際情報学部研究紀要第13号で発表し、他の1編は同じく13年1月にアジア調査会から刊行された「アジア時報」の13年1・2月合併号に発表した。
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