研究課題/領域番号 |
24653043
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
浅野 豊美 中京大学, 国際教養学部, 教授 (60308244)
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キーワード | 賠償 / 請求権 / 日米関係 / 占領 / ガリオア / 閉鎖機関 / 在外財産 / 引揚 |
研究概要 |
本研究は、国際協力プログラムの起源を賠償問題の展開過程の中に探り、日本の賠償政策が変質し、各種の国際協力プログラムへと、国際的国内的圧力の下で再編されていった過程を歴史実証的な分析によって行わんとするものである。 それに対応する経済協力関連資料の請求を本学の研究所と連携しながら、外交史料館に対して行った。また日本国際政治学会で、名古屋大学を中心とする連携研究者と共に、ドイツ賠償との比較の観点から中間報告に当たる報告を行った。第二次大戦後の構想を練る中で、連合国は、武装解除され安全保障コストを負担しなくなる旧枢軸国が、戦後復興において逆に経済的に有利になるという矛盾を自覚し、いかにして「世界平和維持費用」を旧枢軸国に負担させるかという問題に直面しており、それを起点としてヨーロッパにおいてはヨーロッパの統合の基礎が生まれたという仮説が、ドイツ研究者からも提示されるなど、斬新な視点として大いに好評を博した。それは『外交フォーラム』の紙面で援助の最前線に立つJETROアジア経済研究所の平野克己研究員からの好意的な紹介を受けた。 次に述べるアメリカでの発表と合わせ、国際政治学会での発表は、東アジアにおいてヨーロッパ統合に代わった日米の特殊関係が、旧植民地地域を含めた三者の構造として分析されるべきことについての学会レビューの場となった。アメリカでの発表においては、福島を焦点として電源開発と水利開発の延長に原子力が位置づけられ、日米の特殊な関係が戦前に由来する福島県人移民ネットワークに支えられていたこと、福島への原子力技術導入もその文脈に位置することを確認できた。 また、早稲田での招待講演を通じては、現代に継承されている賠償問題ともいうべき「植民地支配の清算」や「歴史認識」の問題を、「継承責任」というコンセプトでとらえ、その責任の起源を実証的に解明する必要が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、招待講演が4件あり、アジア経済研究所・ジェトロ(日本貿易振興機構)、早稲田大学、中央大学、そして韓国のソウル大学で報告を行った。そのことで、その準備に相当な時間を使った一方、アメリカの公文書館は開館時間が短縮されたり部分的に閉館するなど、当初の予定通りに調査ができなかったため、翌年度に調査を持ち越さざるを得なかった。それにもかかわらず、思わぬ副産物として、問題の広がりを確認させられる発表が続いた。アメリカのアジア学会では、戦後の日米の技術協力関係を象徴する原子力発電を中心に、水力発電開発史、移民史を専攻する研究者と連携し、戦後日本に対するアメリカの技術協力の一貫として原子力協力が開始されたを論じた。日米の特殊な関係の背後には、福島県の地方エリートとアメリカ在住の福島県出身日系移民コミュニティーとのネットワークがあり、日米双方の「原発村」の連携が行われていたこと、たまたま当時の東京電力社長も福島県人であったためにその連携が可能となったことが明らかとなった。 国際政治学会では、名古屋大学を基盤とする他の科研チームと連携し、部会『第二次大戦後の賠償問題と戦後秩序形成の新視角』を開催し、重層的アジア経済協力レジームをめぐる日米アジア特殊関係について報告をした。 二つの学会で報告を行うことができ、前年の台湾に続いて、福島を焦点として電源開発と水利開発の延長に原子力が位置づけられ、日米の特殊な関係が移民に支えられて展開していたことを確認することができた。こうした特殊な日米関係が強固になるほどに、アジア諸国との間の歴史の清算問題が積み残され、現代に継承されていることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
賠償問題についての外交資料を、日本の外交史料館において大量に複写していく。これを今後も継続していく。賠償問題が技術協力という問題を焦点に、技術を運ぶ移民や、原子力問題とも連結していたことを意識しながらも、JICAや海外青年協力隊という経済協力機関が、1960年代に整備されていった過程に焦点を戻して、それに関連した資料収集を続ける。そのために、池田・ロバートソン会談など、戦後史に有名な事件を再度洗い直して、政治と経済にまたがった特殊関係の内実の解明を行っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
招待講演が数多く、資料収集および資料整理に時間を十分に割くことができず、翌年度回しとした。 パートを雇用して資料整理を行うと共に、東京とワシントンへの資料収集に出かける。
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