第1に、19世紀後半から20世紀初頭にかけての租税および国家運営に関する欧米の知見が日本の思想界に及ぼした影響について検討した。第2に、当該研究課題にとっても重要な資料であるカール・S.シャウプ・コレクションについて、従前の断続的な整理作業の一部を引き継ぎ、資料の内容についてのカタログ化とその部分的な公開作業を施した。 まず、1860年代初頭にドイツで刊行されたオットー・ヒューブナーの手になる経済学概説書は、フランス語訳を経路として多くの言語に翻訳された。ヒューブナーの波及状況を比較する国際的研究プロジェクトに対応して、1880年前後の2種類の日本語訳について調査検討をおこなった。付随的に、近代以降の経済思想の特質を古典古代のオイコノミア以来の摂理や管理の系譜上に位置づける論説を執筆した。また、西欧の功利主義思想の明治期における受容状況を、ジェレミー・ベンサムに焦点を当てて検討した。 次に、横浜国立大学附属図書館はカール・S.シャウプ・コレクションを所蔵している。在命中のシャウプが1990年代初頭に日本の研究機関に託す意向を示したことにより、1992年に所蔵することとなったものである。シャウプ使節団が日本を訪れた1949年から60年を経た2009年以来、英米の研究者とともにシンポジウムおよび英文論文集の刊行を進めてきた。その一層の展開として、所蔵資料データベースの公開に着手した。具体的には当該の作業に当たった千原則和氏によって整理されたカタログを、「シャウプ・コレクションを活用した税財政に関する国際的研究:研究拠点リサーチ・シリーズ」として提供するものである。その第一陣として、1930年代から1940年代というシャウプ訪日に先立つ時期についてマイクロフィルム化済みの書簡のリストを横浜国立大学附属図書館のリポジトリ上に公開する。
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