本年度は、昨年度に得られたfMRI実験データの解析を行った。fMRI実験に先立って、生理学研究所の被験者プールを用いて大規模郵送調査を行い、社会効用パラーメーターを個人別に推計した。その中から社会効用パラメーターが大きな被験者13名(妬みの大きな被験者)と、小さな被験者13名(利他性の強い被験者)を第二段階のfMRI実験にリクルートした。被験者の性別の構成は男性12名、女性14名となっている。 本研究課題の実験テーマは、性差が社会効用にどの様に影響を与えるのか、その神経基盤を解明するということであった。どの様な脳活動に注目するかについては、実験で示される「自分の収入と比較相手の収入の差」という変数との相関が見られる脳部位を同定した。この様な脳部位(Region of Interest: ROI)における脳活動と、実験で求められた社会効用パラメーターの関係を見ることで、社会効用の神経基盤を解明しようとした。 結果として、まずは前頭前野、島皮質、頭頂皮質、内側前頭前野 (mPFC)、中脳(ドーパミン)、線条体(背側)と各所において、有意な活動が認めら、これらがROIと定められた。これらの脳部位が社会効用に係わる計算を何らかの形で司っている可能性があるということである。次に、ROIにおける脳活動と、行動データから求められた社会効用パラメーターの相関を調べたところ以下のことが分かった。(1) より妬み深い人ほど、相手と自分の所得差に対する脳活動の正の相関が強かった。(2)(1)の効果について、男女差は認められなかった。(3) 自分の所得と比較相手の所得を別々に考えると、女性は男性より自分の所得に強く反応し、他人の所得に対しては弱く反応することが分かった。以上より、性差が社会効用に神経レベルでの差をもたらす可能性を発見することが出来た。
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