研究課題/領域番号 |
24653068
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
村瀬 英彰 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40239520)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 行動政治経済学 / 金融規制 / 複数均衡 |
研究概要 |
本研究を通じて用いる政策決定の基本モデルを構築し、モデルが生み出す均衡政策の性質を理論的に検討した。構築したモデルは、政治主体兼経済主体として振る舞う国民と政策担当者の相互作用から政策が内生的に生み出される政治経済学モデルである。しかし、通常の政治経済学モデルとは異なり、モデルに登場する政治主体兼経済主体としての国民は合理的な経済人ではなく投票者として政策の間接効果を無視し直接効果のみを評価するという思考制約を有し、さらに経済利得だけでなく自らに利益あるいは損失を与えた源泉に対して抱く褒賞・処罰感情がもたらす心理利得にも左右される存在であるとの拡張が行われている。また、モデルで分析対象とした政策は、モラル・ハザードに陥る危険性を持つ金融機関が行う金融技術革新の容認の程度を決定する金融規制政策である。このモデルを使って、伝統的な政策論や政治経済学とは異なる「規制政策と金融機関のモラル・ハザードの相互作用と規制政策のダイナミックス」を導出し、合わせてその出現メカニズムの分析も行った。とくに、経済の初期条件が不十分な規制緩和に特徴づけられる場合と過剰な規制緩和に特徴づけられる場合を分け、規制政策の直接効果に重点を置き金融機関に対して処罰感情を抱く国民の政治的意思決定が、規制とモラル・ハザードの間にポジティブ・フィードバックをもたらし複数均衡を生み出すケースとネガティブ・フィードバックをもたらし永続的な政策の循環を生み出すケースを具体的な数値例を使いながら導いた。これらの結果は、類似の環境にあるにもかかわらずなぜ国により時代により採用される経済政策に大きな差異が生じるのかという経済政策論において従来から存在する疑問に1つの有力な解答を与えるものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度実施計画で起案した「政策の間接効果を無視し直接効果のみを評価する思考制約を有し自らに損失を与えた源泉に対して処罰感情を抱く投票者を組み込んだ新たな政治経済学モデル」を構築し、モデルが生み出す均衡政策の性質を理論的に検討することができた。そもそも、本研究でこのような「拡張された政治経済学モデル」を構築しようとした意図は、伝統的な政策論や政治経済学では容易な説明を許さない現実に観察される政策の永続的な変動や類似の条件下にある国々で採用される政策の多様性を説明する新たな理論の可能性を探ることにあった。構築されたモデルにおいては、伝統的理論では導くことができなかった複数均衡や政策の循環の発生をきわめて自然なメカニズムに依拠して導出することができたため、起案された計画の初年度の目的を満たす研究の進展が見られたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
理論分析から得られた均衡政策の形態と厚生含意について現実に照らした検証を進める。とくに、規制と共に変動する金融危機の発生蓋然性や金融セクターの過熱・停滞という循環問題に重点を置いた分析を行う。この際、具体的な分析対象として念頭に置くのは日本のバブル生成から不良債権処理に至る約30年間の金融規制政策のプロセスである。とりわけ、この期間が、金融の不全と規制の共変関係が経済と政治の相互作用の中で継続的に生み出された時期であったという性格を生かし、金融不全に端を発した経済停滞が有効な政策を得ることなく悪循環化した現象、政策思想の一貫性の欠如による政策の揺り戻し現象など従来の文献で日本の金融規制政策について問題とされてきた多様な現象を、複数均衡、均衡選択の初期条件・微小ショックへの依存、政策の循環といった理論モデルが生み出す現象と照らし合わせ理論と現実の整合性の分析を行っていく。そして、分析結果が本研究の主題である政治主体の体系的な非合理性による現実政策の規範からの乖離をどの程度説明できるかを検討し研究のまとめを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究では、本研究を通じて使用する理論モデルの構築に研究の焦点を置いたことに加えてモデルの数値解析にかかわる問題が所属機関の既存文献およびソフトウェアがカバーする範囲で順調にクリアできたため、次年度使用額(787,896円)が生じた。次年度は、平成25年度の交付請求額(600,000円)を合算した研究費(1,387,896円)で、より多くの現実ファクターを包含する理論モデルの解析と数値パラメーターを用いたシミュレーション分析のためのパソコンおよびソフトウェアとパソコン関連消耗品、ならびに本研究で得られた結果を論文にまとめる際に必要となる既存文献との対照のための資料として政治経済学および行動経済学関係図書を購入し、課題である経済政策の行動政治経済学的決定に関する研究をさらに進める。
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