本研究の基本的着眼点は、途上国工業化のプロセスを試行錯誤的な政策運営の連続と捉え、これをリアルオプションのフレームワークを用いて体系化し、幼稚産業保護貿易論の再評価を試みるものである。ケーススタディとしてマレーシア工業化のプロセスを取り上げ、リアルオプション手法を援用した量的、質的評価の枠組みを提示するものである。 これまでの研究では、主に電気電子産業に焦点を当てて産業研究を行ってきたが、平成25年度から新たにパーム油産業をケーススタディとして取り上げ、その工業化プロセスにリアルオプション的な解釈を試みた。パーム樹はそもそもマレーシア自生ではなく、ゴム・プランテーションの多角化の中で、政府主導でその発展が模索された。オレオケミカルなどの川下部門の発展も、民間、政府の複合による様子見的なプロセスで進んだことが明らかにされた。その経緯からすれば、パーム油産業の発展はリアルオプションモデルでいうところの同時複合オプションに適合的であることが示唆された。 かかる理論的考察を踏まえた上で、Malaysian Palm Oil CouncilのCEOであるYusuf氏などにインタビュー調査を行い、また、パーム油産業関連の世界的イベントであるPalm Oil Conferenceに、研究期間中、毎年参加して知見を広めた。これらの成果から、改めて、パーム油産業の発展が試行錯誤的に開始、継続、拡大された経緯をマレーシア政策運営当事者から確認することができた。この成果の一部は、研究期間2年目に学内紀要にて英文で発表され、それを拡張した英文、和文論文を、国内外の学術雑誌に投稿し、アジア経済研究所編「アジア経済」の掲載が確定している。
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