研究課題/領域番号 |
24653076
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
谷川 寧彦 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60163622)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | デリバティブ / BSオプションモデル |
研究概要 |
本研究は、金融新商品及びその取引機会を提供する民間経済主体の行動を利潤動機にもとづいた経済行為と見なして分析し、いわゆる市場メカニズムにもとづいたこの経済活動から市場の失敗が生じていないか、とりわけ過度の負債拡大が生じていないかその量を把握し、その規模拡大のメカニズムを把握する試みを行うものである。 まず(株式・債券以外の)金融新商品としては日経225オプション(大阪証券取引所上場)のデータを収集し,これらデリバティブにポジションを持つことから生じる実質的な負債比率を計算した。2007年3月末のポジション(建玉残高)の金額換算値総額は1182億円であるが,過去90日間の日経225指数値から得られるヒストリカル・ボラティリティーとブラック=ショールズ・オプションモデルとを用いて計算した,プットおよびコール・オプションに内在する負債部分の総額(絶対値)は,約1.96兆円である。これらオプションでポジションを持つことは,そのポジション価値の16.6倍(=1.96/0.1182)の負債をかかえることを意味しており,このことを意識しなければ必要以上に負債をかかえ,万が一デフォルトした場合には外部波及が生じてしまう可能性がある。ただ,同じ2007年3月末の国債残高6,706兆円はもとより普通社債残高518兆円と比べても1.96兆円という金額はそれほど巨額とはいえないこと,また,オプションのポジションには証拠金などによる制約がかけられていてデフォルト(カウンター・パーティー・リスク)が意識され安易な規模拡大は防がれていることを考慮すれば,日経225オプションのような上場商品については,市場の失敗につながる取引機会提供とはなっていない可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2007/08年の金融危機は,ヘッジファンド,年金ファンド,投資銀行などの広義金融機関(最近ではシャドウバンクと呼ばれている金融機関)が,セイフティーネット・アービトラージを行ったことが原因のひとつであるという指摘がある(Kane(2010)など)。このアービトラージとは,ポジションが巨額の金融機関については,その破綻が持つ金融システムへの波及効果(破壊効果)を怖れて政府が救済する(Too Big To Fail)ということを前提に,金融機関が破綻に備える各種措置や保険プレミアムを支払わず過大なポジションをとり,裁定利益を得るというものである。こうした広義金融機関のポジション構築,すなわち新金融商品の提供に関して,当初計画に沿った形でこれらの活動を把握するまでに踏み込めていないことが,上記評価の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
広義金融機関による金融新商品の提供のあり方を数量的に把握する上で,計画当初は想定していなかったが研究を進めていく中で重要と考えるようになった点が2つある。ひとつは,政府の行動である。セイフティーネット・アービトラージに見られた広義金融機関の行動は,大きければ政府によって救済される(可能性が高い)という,政府の行動予測に基づいている。米国政府は破綻したAIG社を救済したが,リーマンブラザーズ社は救済しなかった。両社とも規模はかなり大きく広義金融機関(シャドウ・バンク)として資金仲介機能を担ってきた点は共通しているが,必ず救済されるとは限らないことがわかる。広義金融機関が政府行動をどの程度意識していたかについても,注意が必要である。 もうひとつは,進展している金融市場のグローバル化により,多くの金融新商品で「国境をまたぐ」ことが当たり前になっているため,国際的な法制度の違いがもたらすリスクの認識である。国境を越えてネットバンク業務を展開し,高金利を求めた預金を海外から多く集めた上で破綻したランズバンキ銀行(アイスランド)の例では,預金保険を使わず,特例法により国内預金者の預金を一般債権者より優先させることで国内「決済システム」の維持がはかられた。海外預金者の預金は外国政府が海外支店を封鎖し銀行に代わって払い戻したため,預金者の国籍により別の取り扱いとなった。このように,ひとつの広義金融機関が提供するひとつの金融新商品であっても,クロスボーダー取引となって複数の国にまたがる居住者が取引に関与し彼らに適用される法制度が共通ではない場合,破綻処理をはじめ金融新商品に内在しているリスクが違うという可能性を考慮する必要性が示唆される。 本年度は以上2点にも注意を払いながら,広義金融機関による金融新商品の提供活動について外部性と規模の経済性の測定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた主たる要因は,時間の制約のため国際学会への参加とパソコン購入を見送ったためである。時間の制約が生じた要因としては,年金積立金管理運用独立行政法人との共同研究を実施する際、内部データ提供や共同研究の進め方に関して共同研究応募時点の説明とは異なる申し出があり、これらに対応する必要があったことが大きい。 この共同研究は2013年3月をもって終了したため,この問題は解決したと考える。 今年度は,政府行動や国際法の違いについて,現在ユーロ危機が進行中の欧州の学会に積極的に参加できるよう,調査旅費を配分した。
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