研究課題/領域番号 |
24653076
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
谷川 寧彦 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60163622)
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キーワード | 金利スワップ / OTCデリバティブズ |
研究概要 |
本研究は,金融新商品及びその取引機会を提供する民間経済主体の行動を利潤動機にもとづいた経済行為として分析し,いわゆる市場メカニズムにもとづいたこの経済活動から市場の失敗が生じていないか,とりわけ過度の負債拡大が生じていないか,その規模拡大のメカニズムを把握する試みを行うものである。 昨年度は取引所の上場オプションを分析したが、今年度は取引所を通さずに行う相対取引(以下OTC) 、具体的にはOTC金利スワップを取り上げてモデル分析を行った。国際決済銀行(BIS)のサーベイ調査によれば、ここ15年間にOTCデリバティブズは想定元本ベースで10倍に拡大してきており、そのうち金利関連が8割を占め、OTC金利スワップの拡大要因を明らかにする意義は大きい。また、今回取り上げた変動金利と固定金利を交換する形の金利スワップ取引は、たとえ取引主体が銀行でなくても、銀行による期間変換機能-“満期”が短い預金を原資として満期が長い企業向け融資を行う-と同等の役割を果たす。証券会社やヘッジ・ファンドなどの投資信託が「影の銀行」として資金供給に影響を及ぼし、2007/08年の金融危機を引き起こした理由のひとつと指摘される所以である。 固定金利による受取りキャッシュフロー(以下CF)をもつ主体が、将来の受取りCFの(再)運用収益率に関するリスクを回避するため、金利スワップ取引を行なう二期間モデルを構築した。同時にもつ変動金利による短期の負債規模が主体毎に異なる点、スワップ金利が固定サイドと変動サイドのCFを市場金利によって評価した割引現在価値と異なっていても,有利であればOTC契約に応じるという2点が、経済主体にOTC金利スワップの取引を行う誘因を与える。米ドル、ユーロ、日本円に関する1ヶ月及び2ヶ月LIBOR金利を用いてモデル解を評価したところ、OTC金利スワップを取引するという結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度開発したモデルは必ずしも銀行ではない民間経済主体がOTCデリバティブズを提供することを説明している。しかし、金融危機後にとられた量的金融緩和政策により金利水準が下がると共にその変動も小さくなり、将来金利(運用収益率)に関するリスクも小さくなくなる中でも、金利スワップを始めOTCデリバティブズが拡大してきていることは,説明できていない。OTC市場の拡大メカニズムが十分解明されたとはいえないことが上記評価の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
以下の方向で研究を進める。 相対取引で金融契約を結ぶには集中化された取引所取引とは違ったコストがかかること、相対取引では競合相手との競合の程度が見えにくく調整メカニズムが働きにくいことなどの、相対取引に関する特徴を持つモデルを開発し、旧知の取引相手と長期的な取引関係を結ぶといった相対取引でよく見られる側面を評価できるようにする。また、このことが経済全体にとってどういう影響をもたらすかを評価し、必要な政策手段を探る。 当初計画にある、金融新商品の提供活動における外部性の程度の測定作業を行う。金融商品(契約)では、その商品内容ないし契約の文言自体に革新性や新奇性があることが多く、そうした情報の「共有」や形式の「標準化」がネットワーク的な外部性を持つことが容易に想像できるが、この程度を実際に測定するのはかなり困難である。金融以外の計量分析例を渉猟することで測定の手がかりをつかむようにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
時間制約により昨年度に生じた研究の遅れを今年度中に取り戻すことができず、計測作業に取りかかる段階にこぎつけられずPCの購入を見送ったこと、データ入力など研究補助者の雇用を行わなかったことが、次年度使用額が生じた主たる原因である。 国内外の学会に積極的に参加し金融以外の分野での計量分析例にも触れることで時間の遅れを取り戻すように努め、必要なPCなども購入して測定作業を行う。
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