本研究は,金融新商品及びその取引機会を提供する民間経済主体の行動を利潤動機にもとづいた経済行為として分析し,いわゆる市場メカニズムにもとづいたこの経済活動から市場の失敗が生じていないか,過度の負債拡大が生じていないか,その規模拡大のメカニズムを把握する試みである。
これまで,日経225オプションに内在する負債部分の大きさを推定したところ,建玉残高以上の負債を内在しているという意味ではレバレッジ効果が認められるものの,建玉残高そのものは小さく,通常の負債(普通社債等)を大幅に拡充するものではないこと,想定元本ベースでみてここ15年間に取引規模が10倍に拡大してきたOTC金利デリバティブズのうち,金利スワップには伝統的な金融機関以外の経済主体にも,これを提供する誘因があることを明らかにしてきた。
金融取引は将来の権利・義務を含んだ契約を現在結ぶものであり,金融新商品についても,契約内容の履行を支える法的環境が重要である。例えば,クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は,実質的な機能は保険でありながら保険及び保険取扱業者に対する規制を受けないよう,これを開発したJPモルガン社は,スワップの形にしたと言われている。今年度は,国境を越えるような金融取引の機会提供に際して,こうした法的環境の国ごとの差が及ぼす影響に関して,日本とイタリアにおける会社法を中心に国際比較を行った。その結果,平成17年度改正の会社法で「種類株式」として株主の権利及び制約を自由に組み合わせた多彩な株式の発行が可能になり,徐々にとはいえ伝統的な「普通株式」以外の種類株式も利用され始めた日本に比べ,イタリアでは,普通株式以外に貯蓄株という種類株式を発行していた上場企業数は半減するなど逆に画一化が進行しており,「標準化」によるメリットはあるものの「多様化」のメリットを受けにくい環境であることがわかった。
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