研究実績の概要 |
本研究は、儒学の諸概念が日本の企業統治-具体的にはその特徴としての「経営者の自己規律」-をa)実態面並びにb)規範面から的確にかつ深く理解する上で有用であることを示し、以て日本企業の経営実践を十分に踏まえた日本発の儒学的経営哲学の展開に先鞭をつけることを目的としたものである。 この目的を達成するために2つのことに取り組んだ。第一に、経営者自身の「自己規律」という戦後日本の企業統治のメカニズムを、儒学的枠組みに基づく「良心による企業統治」という鍵概念で明らかにすることを試みた。ここでいう儒学的枠組みとは、例えば①孟子以来の儒学の基本的人間観である「性善説」を前提に議論を組み立てること、②儒学の二大徳目たる仁と義の概念を発展的に応用して「良心」の働きを説明すること、である。平成26年度はその成果の最終的な仕上げ作業を行い、『「良心」から企業統治を考える』(東洋経済新報社、2014年8月刊)として結実した。さらに、その萌芽となった拙稿が N. Kambayashi ed., Japanese Management in Change(Springer, 2014年9月刊)に収録された。 第二に、儒学に依拠した渋沢栄一の道徳経済合一説の真意を明らかにすることによって、日本の企業経営者の自己規律の道徳的基礎を探究した。道徳的要請と経済的要請の両方を強く身に受ける経営者がどのような思想的スタンスで経営に臨むかは、「企業統治」の哲学的基礎に関わる重要な問題である。この問題を考える上で道徳と経済の両立が可能と説く渋沢の所説が極めて示唆に富むことが明らかとなった。その成果は、本研究の事業期間中の4回にわたる(いずれも英語による)学会報告と、『グローバル資本主義の中の渋沢栄一』(東洋経済新報社、2014年2月刊)所収の拙稿「道徳経済合一説-合本主義のよりどころ-」として結実している。
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