本研究は、儒学的発想が日本の「自己規律」的な企業統治を的確にかつ深く理解する上で有用であることを示し、以て日本発の儒学的経営哲学の展開に先鞭をつけることを目的とした。 この目的を達成するために、第一に、経営者自身の自己規律という日本の企業統治のメカニズムを、儒学的枠組みに基づく「良心による企業統治」という鍵概念で明らかにした。第二に、儒学に依拠した渋沢栄一の道徳経済合一説の真意を明らかにすることによって、日本型企業統治の道徳的基礎の一つを探究した。「公益第一、私利第二」で道徳と経済の両立を実現しようとする渋沢の理念は、「良心による企業統治」に重要な哲学的基礎を提供することが明らかになった。
|