研究課題/領域番号 |
24653081
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
涌田 幸宏 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (30255020)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 社会企業家 / 新制度派組織論 |
研究概要 |
現在、行政主導の画一的な政策によるまちづくり・町並み保全から脱却し、社会企業家を中心としたまちづくり運動に期待が寄せられている。しかしながら、その一方で、社会企業家と多様なステークホルダー、行政との連携不足などの問題も指摘されている。こうした問題意識から、本研究では、本研究は、新制度派組織論の視点を用いて、具体的な事例の実態調査を通じて、社会企業家らがどのように多様な連携を形成・維持しながら、まちづくり運動を推進するのかについて分析を行うことを目的としている。さらには、多様なステークホルダーとの連携を形成し、正当性を確保しても、多様な利害の調整から、当初の目的が達成できなくなるという「連携のパラドクス」の解決策を見いだすことも目的としている。 初年度は、社会企業家活動における制度変化を取り上げた新制度派組織論の文献をレビューし、社会企業家による制度変化に対して、本理論の適用可能性を見いだすことができた。そして、この成果をふまえて、制度的ロジック(institutional logics)の競合性、組織フィールドの構造化とフィールド間の相互作用、理論化と具象化の意味形成プロセスなどの概念を抽出し、分析のフレームワークを構築した。次に、フィールドスタディの候補地をいくつか選出し、予備調査を行った。とりわけ、丹波篠山における古民家再生プロジェクトは、様々な社会企業家が連携を行っており、エリアマネジメントのあり方について、多くの示唆を得ることができた。そして、様々な利害をもったアクター間の相互作用に注目し、「推進者」と「翻訳者」という異なる機能を持った社会企業家たちの集合的行為を分析する可能性を見いだすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、研究計画の第一フェーズとして、本研究が依拠する研究領域、すなわち、新制度派組織論や社会運動論、社会企業家に関係する先行研究の文献レビューを行い、分析のフレームワークの構築を行った。新制度派組織論の系譜と現在の課題、主要な理論的背景となる制度的起業、制度的ロジック、組織フィールドなどに関する先行研究を検討し、とりわけ、制度変化のマクロ的側面として、主要アクターの言説分析に着目をした。また、あわせて、質的調査方法論を検討するため、事例研究法のほか、文化人類学や社会学におけるエスノメソドロジーやライフヒストリー法も参照した。次に、研究の第二フェーズの最初として、いくつかの地域を対象に、どのようなまちづくり活動が展開されてきたのかを二次資料を基に調査し、とくに丹波篠山地域について予備調査を実施した。そして、この予備調査の結果をうけて、文献レビューを再び行い、分析フレームワークの再検討につなげた。初年度は、研究計画の第二フェーズの半分以上を無事に実行できたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究の推進方策としては、研究計画の第二フェーズの残りと、最後の第三フェーズを実施する。具体的には、まず予備調査地域をいくつか選定し、比較研究が行えるようにする。候補としては、宇和島、京都、倉敷などを検討している。こうした予備調査から得られたデータをもとにして、比較分析のフレームワークを設定し、本格的なフィールドワークを実施する。調査においては、運動を推進する主要アクターの役割、まちづくりに対する期待、目的、意図、運動に至った経緯について、当事者のライフストーリーを詳細に聞き出す手法を取り入れて調査を行う。また、これと並行して、調査方法論も引き続き検討を行う。最後に、フィールド調査の結果を分析し、まちづくり運動における利害調整プロセスとそこに関与した主体の役割、社会企業家の連携のあり方などについて検討を行い、実践的な提言を導出する。またあわせて、新制度派組織論に対する理論的な課題についても、今後の研究の方向性を示し、インプリケーションを導くことにしている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究経費のなかで主要な部分は、まちづくり運動に関する情報収集、予備調査、本調査における多様な関係者への聞き取り調査のための旅費と取材機器である。事例の調査は、丹波篠山、宇和島、京都、倉敷などを予定しており、関係者への広範囲な聞き取り調査のため、長期の滞在が想定される。このほか、まちづくりに関わるNPO「日本民家再生協会」などへのインタビュー調査も行うことにしており、東京等への出張旅費も発生する。また、研究者や実践家から専門知識の提供を受けるために謝金も必要となる。さらに、現地調査に適した軽量のノートパソコンや取材機器も購入予定である。年度の最後には、研究成果の発表のための旅費、成果報告書の印刷・製本費も発生する。
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