現在、多くの企業が商品やサービスのコモディティ化による業績の悪化に頭を抱えている。本研究では、製品ライフサイクルの各ステージの市場状況におけるプレイヤーの利得行列の分析をもとに、ゲーム理論のフレームワークを利用して、コモディティ化が生起する要因を明らかにし、それをもとにコモディティ市場における企業の経営戦略の糸口を提示することを目的とした。また、これまで経営学研究において提示されてきた企業行動の特徴や、それに基づく経営戦略の根拠のほとんどが、事例から帰納的に求められているのに対して、理論的で演繹的な根拠の提示に挑戦し、何らかの萌芽的な知見を示すことを目指した。 本研究を通じて明らかになったことは、企業にとって何らかの差別化戦略(本研究では「開発戦略」)を採ることは優位戦略であり、絶対的にも、競合企業との相対的な競争関係にも期待利得の増加をもたらすものであるので、すべての企業はそれを志向するようになる。さらに、ライフサイクルの初期において、能力のレベルにかかわらず開発戦略によって、すべての企業が利得の増加を経験することで、開発能力向上志向が強化され、それが成功法則と認識されるようになる。 しかし、成長期、成熟期とステージが進み、市場のコモディティ化が進展するにつれて企業の期待利得は逓減し、やがて負となるにもかかわらず、相対的な競争関係だけに囚われている企業は、開発戦略が絶対的に優位な戦略とみなし、それによって競合企業を凌駕し、市場シェアの拡大を実現しようと、いつまでも開発能力向上を追求し続ける。このように、過去の成功戦略がコモディティ化市場において陳腐化していくにもかかわらず、企業はそれに気付き難いことを説明している。 これは、まさにクリステンセン教授の説く有名な「イノベ―ターのジレンマ」であり、本研究では彼の主張したオーバーシューティングの仕組みを理論的に説明している。
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