前年度の実績を踏まえ、イジングモデルに基づく近接相互作用型のエージェントモデルを用いて、さまざまなパラメータに対して、大規模な数値計算を行った。パラメータとしては、外部磁場の大きさを規定するものと、エージェント間の相互作用の大きさを規定するものの二つが存在する。外部磁場の向きを上向きと定義した。初期状態として、各エージェント持つ磁性がすべて下向きの状態をとる。これは外部磁場と逆向きになっているので、完全な安定状態ではないが、すべてが上向きの状態になるためには、一部分が上向きの状態を経由せねばならない。そのような状態は、相互作用のエネルギーにより、初期状態よりもエネルギーが高く、初期状態が速やかに上向き状態にそろうことはない。しかし、熱的揺らぎの効果により、一定時間後には大多数が上向きの状態になるようにモデルを構築した。 数値シミュレーションの特性上、統計誤差が生じるが、同一のパラメーターセットに対して1万回以上のシミュレーションを行い、その平均を得ることによって、統計誤差を1%以下に抑えることができた。 その結果、近接型の相互作用を持ち、ネットワークの外部性の効果が強く表れる系においては、利用者数が母集団の20%程度で指数関数的な増加から線形増加へと変化する現象を再現できることが判明した。また、モデル内に現れるパラメータは、基本的には時間スケールを与えるものであり、指数関数的な増加から線形な増加へと移行する閾値は、モデルのパラメータにあまり依存せず、おおむね母集団の20%程度であることが判明した。また、エージェント数が6400を超えると、格子サイズを変更しても結果には有意な変化が見られず、得られた結果は境界条件に依存しないことが確認できた。
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