本研究は、技術的な優劣ではなく「美しさ」のように、感性を製品化する過程における知識ダイナミズムについて研究した。技術的なイノベーションは、国が違えどある程度共通の尺度が共有されている。この点において、技術的イノベーションは、国の文化からの影響を受ける程度が少ない。しかし、感性を製品化する場合においては、文化的影響を色濃く受ける可能性が高い。 日本には、多くの美しい製品、建物、美術等が存在する。しかし、日本人もしくは日本の工業製品で、美しさ、という点で世界的な成功を収めている製品はごくわずかしか存在しない。国を超えて受け入れられる美しい製品にはどのようなものがあり、それが文化的な差異を乗り越えて世界中で受け入れられる上には、どのような要因が影響しているのか。本調査では、こうした関心を持って、美しさを開発する過程について研究してきた。 本年度は、2点を調査した。1点目は、地理的な広がりではなく、時代を超えて受け入れられる美しい製品を開発するのに必要な要因について調査した。京都の和装産業には、400年以上の歴史を持ち、独自の「顔」を持つ企業が存在する。こうした企業が、世代を超えてその企業らしい「美しさ」を維持する上での要点について、ヒアリングした。2点目は、美しさの開発プロセスにおける感性の共有過程を調査した。その結果、感性を開発する段階では、初期において概念の共有に時間をかける必要がある一方、新規性の開発プロセスでは、初期に多くのアイデアを出し、融合させるセレンディピティの過程が重要であることが導かれた。 こうした研究結果を年度内にEGOSで発表し、スタンフォードデザインセンターやIDEOの視察、ワークショップの参加を通じて、感性を反映した製品の開発との比較研究を行った。 『季刊家計経済研究』110号(2016)にIKEAとスウェーデンの文化・デザイン戦略に関する書評を記した。
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