科学に基礎をおく戦後日本企業(機能性素材化学企業)における技術的知識の生成過程の内実と特徴を明らかにするため研究を進めた。その結果としてえられた知見は以下のとおりである。 (1)企業における有機物質にかかわる研究者・技術者は、日本においては、主として理学部・工学部・薬学部・農学部およびその大学院という高等教育機関から輩出されてきた。そこで育成された彼らの主要なスキルとは、天然物を精製したうえでその分子の構造を決定するという「ものとり」の能力、あるいは目的とする物質をえるために合成経路等を発見・創造するという「ものづくり」の能力のいずれかであった。その後彼らは、企業の研究開発職能部門における研究者・技術者として職務経験を重ねるなかで、「ものとり」「ものづくり」という能力を蓄積して統合していくことにより、目標とされた性質を有する物質の分子設計を行い、それを現実に存在するものにしていった。 (2)上記の実現のさい、同じ職場内部とはいえ異なるチームに属する、それぞれ「ものとり」「ものづくり」のスキルを有する高等教育機関出身者同士の知的相互作用、および合成にかかわるスキルを有する中等教育機関出身者による貢献(収率の向上など)が確認された。後者については、例えば本研究対象企業の海外の同業他社においては、物理や化学の高等教育機関出身者たちが技術的知識生成の中心的役割を果たしてきたことからすれば、それは戦後の日本企業に見られた一つの特徴といえよう。
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