研究課題/領域番号 |
24653115
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
王 智弘 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究員 (60614790)
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キーワード | 資源 / 統治 / 住民運動 / 周縁 / 漁業者 / 水産資源 / 森林資源 / ガバナンス |
研究概要 |
1.屋久島における資源統治の歴史的過程:主に歴史・郷土資料により、明治期から戦前にかけての屋久島における森林開発と漁業者との関係を、漁獲量と伐採量の推移に時代背景(近代化、経済成長、戦時動員)を合わせることで理解し、林業と漁業への社会的分業の進展に与えた林野行政の影響を把握した。 2.漁業者の植林活動の展開と背景:主に先行研究・郷土資料・新聞雑誌の収集を通じて、宮城県(唐桑町)と鹿児島県(屋久島町)の漁業関係者による植林活動の展開と戦後の文脈との関係から理解し、沿岸漁業者が立たされてきた資源問題の社会的構図を検討した。 3.環境・資源問題をめぐる日本の住民運動の歴史:漁業者の植林活動を資源の統治に対する抵抗として位置付けるために、河川・沿岸域で生じた公害に対する住民運動についての資料の収集を行った。戦前の足尾銅山鉱毒事件や、戦後、工場排水の被害を受けた漁業者が実力行使に訴えたことから水質二法制定の契機となった本州製紙事件など、これまでの公害反対運動における住民の論理との比較作業に取り組んだ。 4.「日本的なるもの」とガバナンス:資源・環境をめぐるガバナンスの在り方を文化的な側面(特に生態系サービスとの関係が深い)から検討するための糸口として、奄美群島のサカ歌や柳田国男の「俚諺武器説」などに着目し、民俗学領域の資料収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
調査対象地域が被災地域を含むことから、フィールド調査に先立ってまず文献調査を踏まえ、中間成果としての論文執筆に優先的に取り組んだが、調査地における資源利用の歴史的変化と日本の公害・環境問題をめぐる住民運動の展開を踏まえ、調査事例を位置付ける作業と分析枠組みの構築に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
調査地における資源利用の歴史的変遷についてはおよその把握ができたことから、今後は、調査対象の期間を戦後に絞り、検討・調査課題、対象者、質問項目をそれぞれの事例の位置付けに照らして絞り込む。 漁業者による植林活動では住民が創作した短歌から「森は海の恋人」というコンセプトが生まれたことや、他方、諺や慣用句には生態系に関連した伝統的な知識を含むものがあり、資源保全制度や政策理念に影響を与えることができるとする海外からの報告もあることから、生態系サービスの文化的な領域と資源の統治とのかかわりに関する先行研究の調査を行い、調査対象事例の日本的な特徴を明らかにすると同時に研究成果の体系化と絞り込みを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定されていなかった大幅なエフォートの増加、および、研究機関の移動、また、調査対象地域に震災被災地が含まれていることからも、特にフィールド調査の研究計画の遂行が困難であった。 年度の上・下半期のそれぞれの期間に、北海道、宮城県、鹿児島県の3箇所の調査地で漁業関係者を中心に、森と海の社会的つながりに含まれるアクターも含め、主にインタビュー調査を行うため、年度内に計6回のフィールド調査を実施する。インタビュー対象者への訪問にあたって公共交通機関の利用が効率的でない場合にはレンタカーを利用し、インタビュー結果のデータ処理作業に謝金の支払いを予定している。加えて、日本の文化や民俗学、郷土史関連分野をはじめ、海外における資源ガバナンスの事例にも目を向けて、研究関連書籍の収集と購入を継続的に行っていく。
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