研究課題/領域番号 |
24653118
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河村 倫哉 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (80324870)
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キーワード | 国際情報交換 / ナイジェリア / レバノン / 南アフリカ / 多極共存 / 民族対立 / 社会資本 |
研究概要 |
多民族社会での制度構築について、多極共存型と向心型という二つのアプローチの検討を通じて、より望ましい制度を考えるのがこの研究のテーマである。第二年度は、望ましい共存の在り方を理論的により精緻化すると同時に、共存が問題になっている国に実際に赴き、現地の様子を詳しく調査してきた。 第一の理論に関する点であるが、人々が共存するためには、一方で信頼や情報へのアクセス、安心感など、社会的な資源が人々に平等に保障されていなければならず、それを欠いた人々は自分たちの文化で固まることによって、それを手に入れようとする。しかし他方で、そのようなやり方で固まってしまうと、民族を超えた協力関係が生まれにくく、社会の統合が取れなくなってしまう。そこで、民族の独自性を認めるにしても、統合や協力を損ねない限度で行わなければならず、また統合や協力を促進するにしても、それがもともと不平等だった社会的資源の問題を置き去りにしないように配慮される必要がある。差異の承認と統合が好循環をもたらすべきだということを、社会的資源の観点から明らかにした。そして第二に、現実の社会では、何が問題となってそのような循環が損なわれているのか、どうすれば好循環を作ることができるのか、ということを明らかにするために、ナイジェリア、南アフリカ、レバノンに調査旅行を行った。ナイジェリアはまだ差異の承認も統合の深化も不十分であり、これから両者を深めていかなければならないが、そのバランスが難しいということ、レバノンは一時は多極共存でうまくいったが、そこからさらに統合・協力関係の構築を怠ったため、バランスが崩れてしまったということ、南アフリカは治安の悪化や政治の腐敗など問題点もたくさんあるが、差異の承認と統合の好循環を作り出すという点では、ほかの国よりもまだうまくいっているということが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第二年度の目標は、理論的な考察をさらに深めると同時に、実際に民族対立の生じている地域に赴いて調査を行い、そのような理論的考察がどの程度適用可能か調べるということであった。 理論的には、近代社会で民族紛争がなぜ生じるのか、そのメカニズムをより詳しく明らかにすることができた。近代社会では政治、経済、教育、地域社会など、様々な領域が分化しており、それぞれの文化が固有の論理に基づいて手分けして資源を人々に分配することで人々の共存を容易にしていた。しかし、そのような領域は必ずしも適切に分化できているとは限らず、不明瞭な境界が残り、特定しがたい資源の問題が残る。その分配を求めるために文化が動員されて、民族対立が生じると考えられる。 そこでそのような分配を是正し、そのうえで民族を超えた交流が生まれるようにすることが解決になる。理論的にはここまでを明らかにすることができ、あとは、そのような解決方法を実行可能なものにするためには、どのようなバランスに配慮しなければならないか、細かいところを詰める作業が残っている。それが第三年度の課題となる。 現地での調査もそれなりに進み、それぞれの社会がどのようなメカニズムで民族間の共存を損なわせているのか、固有の原因や特徴をつかむことができた。あとは、現地の状況に沿った形で、解決策を提言することが残っており、それもまた第三年度の課題となる。 以上のことから、おおむね計画通りに進んでいるものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
第三年度は、解決策のエッセンスをもっと細かく詰めていくことと、それが現地に対して実効性を持った解決の提言となるように、理論と経験を突き合わせていくことが残されている。 ナイジェリア、南アフリカ、レバノンでそれぞれ別個に政策提言するのではなく、共通の理論から導き出される形で、相互に関連付けながら、政策提言を行っていきたい。そしてそこから、紛争地一般に対する平和構築の指針を導き出せるとよいと考えている。 得られた成果は外国で発表することを考えているので、英文への翻訳や公正に研究費を使用する予定である。また、場合によっては、理論と突き合わせるために、現地の様子をもう一度調べに行くことも考えられるので、そのための旅費も必要になる。 研究政策の大筋はすでに固まっているが、それを論文にするときには、細かいところでいろいろと文献を確認する必要があり、そのための論文入手や書籍購入にも、研究費を必要とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
私の所属する大阪大学国際公共政策研究科が頭脳循環プログラムで南アフリカのフリーステート大学と提携したため、現地へ会合に行った際に、そのプログラムの基金を用いて出張した。その出張と合わせて南アフリカの調査を行ったために、旅費の使用が少なくなった。 ナイジェリア、南アフリカ、レバノンの他民族共生を促進するために政策提言をするのが本研究の目的であるが、それが現実に即した実行可能な解決となるためには、一度政策の素案を導き出した後で、それが妥当なものかどうか、現地にもう一度調査に行って確認することが必要である。当初の三年目の費用では、三か国すべてに確認に行くことは難しかったが、二年目の繰り越しを用いれば、それが可能になるので、ぜひそのために使用したい。
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